明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

2016-01-01から1年間の記事一覧

ロバート・ワイズ『捕われの町』――50年代反共映画に限りなく近いフィルム・ノワール

ロバート・ワイズ『捕われの町』(The Captive City, 52, 未)★★ロバート・ワイズの最高傑作の一つという人もいるフィルム・ノワールの佳作。私自身はそれほどの感銘を受けなかったのだが、実に興味深い作品である。車でハイウェイを疾走していた主人公の新聞…

新作DVD——『墓地への侵入者』、『家族の灯り』 [Blu-ray]、『光りの墓/世紀の光』 Blu-ray ほか

DVD

クレランス・ブラウン『世界の推理小説傑作映画 墓地への侵入者』 [DVD]、ロバート・シオドマク『世界の推理小説傑作映画 クリスマスの休暇』 [DVD] 「世界の推理小説傑作映画」などというパッケージにまとめられてしまったが、クレランス・ブラウンの『墓地…

テレンス・デイヴィス『Of Time and the City』――Listen to Liverpool

テレンス・デイヴィス『Of Time and the City』(2008) ★★★ 「われわれは自分が憎んでいる場所を愛し、そして愛している場所を憎む。愛している場所を去り、そして人生を費やしてその場所を取り戻そうとする」冒頭、監督のテレンス・デイヴィス自身の声によっ…

エリック・ロメール『クロイツェル・ソナタ』

エリック・ロメール『クロイツェル・ソナタ』(56) ★★ レフ・トルストイの原作を習作時代のロメールが映画化した短編。ロメールは監督・脚本のみならず、主演もつとめている。製作担当のゴダールが、ロメールの知人役で出演しているのも見逃せない。クレジッ…

ジョゼフ・ロージー『The Gypsy and the Gentleman』

べつに忙しかったわけではないのだが、なんだか何もやる気が起きず、すっかりブログの方もご無沙汰している。そろそろ更新しようと思う。しかし、長いものはかけそうにないので、まずは短い記事から。 ジョゼフ・ロージー『The Gypsy and the Gentleman』(58…

新作DVD——『悪魔の虚像/ドッペルゲンガー』『ラスト・ラン 殺しの一匹狼』『追想のヨーロッパ映画 ~死ぬまでに観たい名画 100 DVD-BOX』ほか

DVD

フランク・キャプラ『オペラハット 80周年アニバーサリー・エディション』 [Blu-ray] ウィリアム・ウェルマン『ロビン・フッドの復讐』 『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム(デラックス10周年エディション)』 [Blu-ray] セシル・B・デミル『絶海…

シャフラム・モクリ『Fish & Cat』——ワン・カットの長回しで撮られたイラン製ホラー映画

シャフラム・モクリ『Fish & Cat』(Mahi va gorbeh, 2013) ★★½ 全編ワン・カットで撮られたイラン製ホラー映画(といっていいのだろうか?)。好奇心で見たのだが、意外と面白かった。 イランのレストランで人肉の料理を出していたコック数人が逮捕されると…

マリオ・カメリーニの30年代についての覚書――ファシズムの時代のカーニヴァル的コメディ

たかだか10本ほどしか見ていないのに断言するのもなんだが、やはりカメリーニの30年代作品は格別だ。それは、30年代に撮られた『Il cappello a tre punte』(35) とそのリメイクである『バストで勝負』(55) を見比べてみれば歴然としている。『Il cappe…

ラウル・ルイス『盗まれた絵の仮説』——幻惑する2人の語り手

ラウル・ルイス『盗まれた絵の仮説』★★★½ ピエール・クロソウスキーの奇々怪々な小説『バフォメット』に基づいて、というよりは、この本に緩やかにインスパイアされて作られた映画で、ルイスの名を世に知らしめた初期の代表作である。ずいぶん久しぶりに見直…

新作DVD——『サッシャ・ギトリ 傑作選 Blu-ray BOX』『七番目の道連れ』『決闘コマンチ砦』ほか

DVD

バッド・ベティカー『決闘コマンチ砦』 [DVD]、『反撃の銃弾』 [DVD]「聡明なるバッド・ベティカーの西部劇の決闘シーンが与える呆気なさ。それはまさしく、映画が視線を映しえないという映画自身の限界が露呈された瞬間の戸惑いといったものだ。誰も、交錯…

ピーター・ゴッドフリー『第二の妻』——画家とモデルの吸血的関係

ピーター・ゴッドフリー『第二の妻』(The Two Mrs. Carrolls, 47) ★★½ 『レベッカ』『ガス燈』『断崖』の系譜に連なるフィルム・ノワールの佳作。「妻を殺そうと企む夫」という物語はフィルム・ノワールではお馴染みのもので、他にも、『扉の陰の秘密』、『…

ジョージ・キューカー『結婚種族』——キューカー恐るべし

「コメディはまず滑稽でなくてはいけないが、それを一段高いものにするには、人間性が必要になってくる。だからコメディとして成功したものはすべて悲劇としても成功するし、その逆もまた真なのだ」(ジョージ・キューカー) ジョージ・キューカー『結婚種族…

アンソニー・マン『The Great Flamarion』とウィリー・ワイルダーについての覚書

アンソニー・マン『The Great Flamarion』(46) ★★ アンソニー・マンのフィルモグラフィーは、フィルム・ノワール時代、西部劇時代、スペクタクル活劇時代の大きく3つに分けられる。『The Great Flamarion』(未公開作品だが、「たそがれの恋」というノワール…

新作DVD——『阿片台地 地獄部隊突撃せよ』『サミュエル・フラー・セレクション Blu-ray BOX』ほか

DVD

『サミュエル・フラー・セレクション Blu-ray BOX』 『ショック集団』『裸のキッス』『チャイナ・ゲイト』の3作品を収録。DVD化・単品での発売の予定はないとのこと。 マーティン・スコセッシ『タクシードライバー 40周年アニバーサリー・エディション(初回…

ブライアン・デ・パルマ『レイジング・ケイン』再見メモ

ブライアン・デ・パルマ『レイジング・ケイン』★★ この映画を最初に見たのは、たしか当時たまたま2ヶ月ほど住んでいたトゥールの映画館のフランス語吹き替え版だった*1。わけがわからない映画に見えたのは、自分の語学力のなさのせいだと思っていたのだが、…

リチャード・フライシャー『静かについて来い』

リチャード・フライシャー『静かについて来い』★★ フライシャー初期の犯罪映画。フィルム・ノワールとして語られることもある作品だが、実際は、刑事映画といったほうが内容に近い。フライシャーとしてはマイナーな部類に入る作品で、正味一時間にも満たない…

エロール・モリス『The Thin Blue Line』——フィルム・ノワールに限りなく接近するポストモダン的(?)ドキュメンタリー映画の傑作

「『路上での偶然の出会いの物語』とモリスの呼ぶこの見事に様式化されたドキュメンタリーは、エドガー・G・ウルマーの『恐怖のまわり道』のように容赦のないほど運命論的であり、『ブロンドの殺人者』の夢のシークエンスのように奇妙に芸術的であり、『過去…

新作DVD――『チャップリン Blu-ray BOX』、『侯孝賢 「冬冬の夏休み」「恋恋風塵」デジタルリマスターBOX』ほか

DVD

『ハリウッド刑事・犯罪映画傑作選 DVD-BOX 2』 『Tメン』(アンソニー・マン)、『ボディガード』『札束無情』(リチャード・フライシャー)、『ミステリー・ストリート』(ジョン・スタージェス)、『ビッグヒート 復讐は俺に任せろ』(フリッツ・ラング)…

ウィリアム・ディターレ『科学者の道』――「伝記映画」についての覚書

ウィリアム・ディターレ『科学者の道』(The Story of Louis Pasteur, 36) ★★ 「『伝記映画』なんてジャンルがあるのだろうか。そりゃあ、個々別々の『伝記映画』なるものは数限りなくあるだろう。しかし、『伝記映画』というカテゴリーがかつて存在したとい…

ヴェラ・ヒティロヴァ『O necem jinem』——平行線は交わらない

ヴェラ・ヒティロヴァ『O necem jinem』(Something Different, 63) ★★ 『ひなぎく』で(というか、この一作のみを通じて)日本でも有名なチェコの女性映画監督ヴェラ・ヒティロヴァの長編デビュー作。チェコ語は全くわからないが、英題・仏題から推測するに…

エリック・ロメール『聖杯伝説』――ブレヒトによって演出されたバスター・キートン?

エリック・ロメール『聖杯伝説』(Perceval le gallois, 78) ★★★ クレティアン・ド・トロワによって12世紀末に書かれた未完の宮廷騎士物語『ペルスヴァル(パルシファル)、あるいは聖杯伝説』を、エリック・ロメールが非常に様式的なスタイルで映画化した…

新作DVD――神代辰巳『女地獄 森は濡れた』Blu-ray、『妻たちの性体験 夫の眼の前で、今…』Blu-ray ほか

DVD

ヴェルナー・ヘルツォーク『小人の饗宴 HDリマスター』 [DVD]、『小人の饗宴 HDリマスター』 [Blu-ray]『カスパー・ハウザーの謎 HDリマスター』 [Blu-ray] 『ジャン=リュック・ゴダール ベストバリューBlu-rayセット』 (期間限定スペシャルプライス) 日活の…

ヒューバート・コーンフィールド『Plunder Road』――ロード・ムーヴィー・ノワールの佳作

ヒューバート・コーンフィールド『Plunder Road』(57) ★½ この映画は、いわゆる "heist movie" (強奪映画)の初期の代表作の1つだが、フィルム・ノワールとして語られることも少なくない。いろいろとユニークな点があってなかなか興味深い作品である。銀行…

ドン・シーゲル『地獄の掟』――アイダ・ルピノと Filmmakers についての覚書

ドン・シーゲル『地獄の掟』(Private Hell 36, 54) ★½ 実は見るのは今回が初めて。大好きなドン・シーゲルの未見の作品ということで、かなり期待したのだが、正直、がっかりするできだった。なぜか『第十一監房の暴動』のような監獄ものだと長い間思い込んで…

ノーマン・フォスター『Woman on the Run』――フィルム・ノワールとメロドラマのあいだで

ノーマン・フォスター『Woman on the Run』★★ さほど期待していなかったのだが、思いの外よくできた作品だったのでびっくりした。監督のノーマン・フォスターは、オーソン・ウェルズの『恐怖への旅』の監督であり、『イッツ・オール・トゥルー』にも関わって…

『地球爆破計画』『アンドロメダ…』――70年代SF映画の2つの古典

SF映画を2本。どちらも地味な作品だが、SF映画史に残る古典である。 ジョゼフ・サージェント『地球爆破計画』(Colossus: The Forbin Project, 70) ★½ "I think Frankenstein ought to be required reading for all scientists." (Colossus: The Forbin Proj…

新作DVD――ダニエル・シュミット『トスカの接吻』、デュヴィヴィエ『旅路の果て』ほか

DVD

『ハリウッド西部劇映画傑作シリーズ DVD-BOX Vol.18』『赤い渓谷』、『ロビン・フッドの復讐』(ウィリアム・ウェルマン)、『サドル・トランプ』、『夢想の楽園』(ヘンリー・キング)、『テキサスから来た男』を収録。『夢想の楽園』は、都会のデスクに座…

シャルナス・バルタスについての覚書——Reminiscences of a Journey to Lithuania

シャルナス・バルタス*1についてはこれまでにも何度か名前を出したことはあるが、ちゃんと紹介したことはなかったので、簡単にまとめておく。 1964年、リトアニアに生まれる。ソ連邦がまさに崩壊の危機を迎えつつあり、当時まだリトアニア・ソビエト社会…

グレゴリー・ラトフ『Moss Rose』――ペギー・カミンズの暴走

グレゴリー・ラトフ『Moss Rose』★★ 19世紀、切り裂きジャックにこそ相応しい深い霧に包まれた夜のロンドン。女友達を殺されたミュージック・ホールの女役者ベル(ペギー・カミンズ)は、事件の直後にアパートを立ち去った怪しい男マイケル(ヴィクター・…

ノエル・ブラック『やさしい毒草』

小さい時にテレビで見た映画のなかには、タイトルも、だれが出ていたかも全く思い出せないが、いつまでも記憶に焼き付いて忘れられない作品がある。物語の詳細はほとんど忘れてしまっているのに、ある細部だけが強烈に記憶に残っていて、その細部が何度も繰…