明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

映画

ジョージ・キューカー『結婚種族』——キューカー恐るべし

「コメディはまず滑稽でなくてはいけないが、それを一段高いものにするには、人間性が必要になってくる。だからコメディとして成功したものはすべて悲劇としても成功するし、その逆もまた真なのだ」(ジョージ・キューカー) ジョージ・キューカー『結婚種族…

ブライアン・デ・パルマ『レイジング・ケイン』再見メモ

ブライアン・デ・パルマ『レイジング・ケイン』★★ この映画を最初に見たのは、たしか当時たまたま2ヶ月ほど住んでいたトゥールの映画館のフランス語吹き替え版だった*1。わけがわからない映画に見えたのは、自分の語学力のなさのせいだと思っていたのだが、…

エロール・モリス『The Thin Blue Line』——フィルム・ノワールに限りなく接近するポストモダン的(?)ドキュメンタリー映画の傑作

「『路上での偶然の出会いの物語』とモリスの呼ぶこの見事に様式化されたドキュメンタリーは、エドガー・G・ウルマーの『恐怖のまわり道』のように容赦のないほど運命論的であり、『ブロンドの殺人者』の夢のシークエンスのように奇妙に芸術的であり、『過去…

ウィリアム・ディターレ『科学者の道』――「伝記映画」についての覚書

ウィリアム・ディターレ『科学者の道』(The Story of Louis Pasteur, 36) ★★ 「『伝記映画』なんてジャンルがあるのだろうか。そりゃあ、個々別々の『伝記映画』なるものは数限りなくあるだろう。しかし、『伝記映画』というカテゴリーがかつて存在したとい…

ヴェラ・ヒティロヴァ『O necem jinem』——平行線は交わらない

ヴェラ・ヒティロヴァ『O necem jinem』(Something Different, 63) ★★ 『ひなぎく』で(というか、この一作のみを通じて)日本でも有名なチェコの女性映画監督ヴェラ・ヒティロヴァの長編デビュー作。チェコ語は全くわからないが、英題・仏題から推測するに…

エリック・ロメール『聖杯伝説』――ブレヒトによって演出されたバスター・キートン?

エリック・ロメール『聖杯伝説』(Perceval le gallois, 78) ★★★ クレティアン・ド・トロワによって12世紀末に書かれた未完の宮廷騎士物語『ペルスヴァル(パルシファル)、あるいは聖杯伝説』を、エリック・ロメールが非常に様式的なスタイルで映画化した…

『地球爆破計画』『アンドロメダ…』――70年代SF映画の2つの古典

SF映画を2本。どちらも地味な作品だが、SF映画史に残る古典である。 ジョゼフ・サージェント『地球爆破計画』(Colossus: The Forbin Project, 70) ★½ "I think Frankenstein ought to be required reading for all scientists." (Colossus: The Forbin Proj…

シャルナス・バルタスについての覚書——Reminiscences of a Journey to Lithuania

シャルナス・バルタス*1についてはこれまでにも何度か名前を出したことはあるが、ちゃんと紹介したことはなかったので、簡単にまとめておく。 1964年、リトアニアに生まれる。ソ連邦がまさに崩壊の危機を迎えつつあり、当時まだリトアニア・ソビエト社会…

ノエル・ブラック『やさしい毒草』

小さい時にテレビで見た映画のなかには、タイトルも、だれが出ていたかも全く思い出せないが、いつまでも記憶に焼き付いて忘れられない作品がある。物語の詳細はほとんど忘れてしまっているのに、ある細部だけが強烈に記憶に残っていて、その細部が何度も繰…

W・C・フィールズについての覚書1——『進めオリンピック』

「2,3年前私は、個人的な楽しみとしてもう一度見たい映画は何か、と大学生たちに聞かれたことがある。私はためらうことなく『我輩はカモである』と『進めオリンピック』だと答えたが、その2本の映画がまさか関連があるとは知らなかった。しかし、それら2…

リチャード・クワイン『媚薬』『求婚専科』

リチャード・クワインのことなどいまさら話題にしてもさして興味を引かないだろうことはわかっている。たしかに偉大な監督とはいえないだろう。つまらない作品もたくさん撮っている。しかしわたしはかれが撮った何本かの作品が本当に好きなのだ。とりわけ『…

アルトゥーロ・リプスタイン『純粋の城』

アルトゥーロ・リプスタイン『純粋の城』(El castillo de la pureza, 73) ★★½ メキシコ映画史に残るカルト作品。 これはたぶん実話の映画化なんだろうなというのは、見ているときになんとなく感じてはいた。信じがたい事件を描いてはいるが、もし本当の話だ…

ジャック・ゴールド『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』

ジャック・ゴールド『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』(The Medusa Touch, 78) ★★ サイコキネシス(作中では「テレキネシス」という言葉が使われている)をテーマにしたオカルト・ミステリー。日本では未公開だが、カルト的な人気があり、allcinema では 9.…

スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』――映画は世界の始まりから存在している

"I believe that cinema was here from the beginning of the world."Josef von Sternberg Everybody say, "Is he all right?" And everybody say, "What's he like?" Everybody say, "He sure look funny." That's...Montgomery Clift, honey!The Crash "Th…

ポール・ヘンリード『誰が私を殺したか?』

ポール・ヘンリード『誰が私を殺したか?』(Dead Ringer, 64) ★½ 俳優として有名なポール・ヘンリードが監督したサスペンス映画。原題はクローネンバーグの『戦慄の絆』を思い出させるがまったく関係はない。『何がジェーンに起ったか?』と『ふるえて眠れ』…

サイ・エンドフィールド『アンダーワールド・ストーリー』

サイ・エンドフィールド『アンダーワールド・ストーリー』(Underworld Story, 50) ★★★ 才能ある監督でありながら、サイ・エンドフィールドは日本ではあまり人気があるとはいえない。それどころか、作家としてもあまり認知されていないような印象さえ受ける…

最初と最後のロッセリーニ——『白い船』と『メシア』についての覚書

『白い船』(La nave bianca, 41) ★★½ 映画作家ロベルト・ロッセリーニのキャリアは、ムッソリーニによってイタリアが統治されていたファシズム時代のまっただ中に始まった。『白い船』はロッセリーニが撮った最初の長編劇映画である*1。海外では、この映画が…

ロバート・シオドマク『大いなる罪びと』――ギャンブル、エヴァ・ガードナー、そしてゴダール

ロバート・シオドマク『大いなる罪びと』(The Great Sinner, 49) ★★½ 『The Rocking Horse Winner』、『スペードの女王』……。偶然なのだが、なぜか最近、ギャンブルをテーマにした映画を見ることが多い。今回紹介するこの『大いなる罪びと』もまた賭けを描い…

ロイ・ウォード・ベイカー『The House in the Square』

ロイ・ウォード・ベイカー『The House in the Square』(51) ★★ 20世紀を生きる科学者がふとしたきっかけで19世紀にタイムスリップし、そこで恋をする。そんな物語にいまさら何の興味がある? と思いながら見はじめたのだが、これがなかなか良くできていて、…

アンソニー・ペリッシャー『The Rocking Horse Winner』──イギリス映画の密かな愉しみ1

グリアスンらによるドキュメンタリー運動、イーリング・コメディ、フリー・シネマ、ハマー・プロ……、といった映画史の概説に出てくるような事柄なら知ってはいるし、多数の作品を見てもいる。しかし、それ以外に自分はイギリス映画のことをどれだけ知ってい…

クシシュトフ・ザヌーシ『カムフラージュ』

クシシュトフ・ザヌーシ『カムフラージュ』(Barwy ochronne, 77) ★★★ 傑作だと思った。わたしがこれまでに見たザヌーシの映画は、『結晶の構造』『イルミネーション』『家族生活』『太陽の年』『巨人と青年』のわずか5本に過ぎない。どれも興味深い作品だっ…

ジャック・ターナー『Circle of Danger』

ジャック・ターナー『Circle of Danger』(51) ★★ ついでに、ジャック・ターナーの映画をもう一本簡単に紹介しておく。これはターナーが独立プロで撮った初めての作品である。そして、この映画はアメリカ映画ではなく、イギリス映画として製作された。タイト…

エリック・フォトリノ『光の子供』──映画のキスから生まれた子供の物語

「私は自分の生まれについてほとんど何も知らない。パリで生まれたことは知っているが、母は誰かわからず、父はただひたすら女優のスナップを撮り続けていた。そして息を引き取る少し前、私が映画のキスから生まれたことを打ち明けた。」 冒頭2ページ目に現…

アレクサンダー・マッケンドリック『The Maggie』と異世界としてのスコットランド

アレクサンダー・マッケンドリック『The Maggie』(54) ★★★ マッケンドリックがイーリング・スタジオで撮ったコメディ。残念ながら日本では未公開で、『マダムと泥棒』などと比べるとあまり知られていない作品ではあるが、マッケンドリックを代表する傑作のひ…

G・W・パブスト『懐かしの巴里』『炭坑』

『懐かしの巴里』(Die Liebe der Jeanne Ney, 27) ★★★ なにやらノスタルジックな邦題が付けられてしまっているが、実際の内容は、タイトルからイメージするものとはだいぶ違う。パブストとしてはあまり有名な作品ではないけれど、時にどぎつくいやらしい人間…

アンドレ・ド・トス『The Other Love』──白いフィルム・ノワール

アンドレ・ド・トス『The Other Love』(1947) ★★ どちらかというと西部劇や犯罪映画、アクションものなどを得意とするアンドレ・ド・トスが撮ったメロドラマ。病名は明らかにされていないが結核としか思えない病に冒された世界的なピアニスト(バーバラ・ス…

チャールズ・ヴィダー『Blind Alley』――映画と精神分析――

気がつけば、びっくりするほど長い間更新していなかった。リハビリがてらに、小さなネタでもいいから今年が終わるまでにせいぜい更新していこうと思う。 チャールズ・ヴィダー『Blind Alley』(39) ★★ ハリウッドが精神分析を映画に取り入れた最初の一例。ギ…

ロバート・シオドマク『人間廃業』『クリスマスの休暇』

なんだかんだといろいろ見ているのだが、あいかわらずなかなか更新できない。なぜにこう毎日のようにどうでもいい小さな問題が持ち上がるのか。 『人間廃業』(Der Mann, der seinen Mörder sucht) ★★ シオドマクが初期ドイツ時代に単独監督した長編第2作。…

トム・アンダーセン『Los Angeles Plays Itself』

トム・アンダーセン『Los Angeles Plays Itself』(2003) ★★★ きらびやかな夜景を捉えたモノクロの空撮画面に「LOS ANGELES」の文字が浮かび上がる。ナイトクラブで歌い終えたストリッパーが楽屋に戻ると、何者かが彼女に向けて発砲する。女は慌てて外に飛…

キング・ヴィダー『森の彼方に』

キング・ヴィダー『Beyond the Forest』(49) ★★★ もう数十年前からずっと見たいと思っていながら、なかなか見る機会がなく、自分の中では幻の映画となっていたヴィダーの『Beyond the Forest』(『森の彼方に』)をやっと見ることができた。 キング・ヴィダ…