明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』


妙な映画である。

監督は『エクソシスト3』のウィリアム・ピーター・ブラッティ。あれは純然たるホラーというよりはサイコ・スリーラーといった方がいいかもしれない作品だった。この作品もはたしてホラーと呼んでいいのかどうか自信はない。たしかに、霧深い森に閉ざされた古城という舞台装置は確実に恐怖映画のそれである。あるいは、マルキ・ド・サドの倒錯的な哲学小説やゴシック・ロマンスを彩るにふさわしい舞台となりえたものであろう。しかし、その城を映し出す冒頭の映像にはいかにも70 年代風の甘いポップミュージックがかぶさり、クレジットの背景には宇宙ロケットの発射台と巨大な月の映像が使われている。このちぐはぐでキッチュな印象はこの作品全体を通じて感じられるものだ。

クレジットが終わるとナレーションによって、その古城が太平洋沿岸のとある場所にあること、そして、そこにはベトナム戦争で精神に異常をきたしたものたちが集められ、いわば治療実験のようなものがおこなわれていることが説明される。一種の精神病院だ。かれらは戦争の恐怖ゆえに異常をきたしたらしい。これを公にすることは反戦運動にもつながりかねない。だから人里離れた場所で治療実験がおこなわれているというわけだ。

患者たちを管理するものたちは軍服を着た軍人であり、患者たちもまた軍人である。患者たちの恰好はどれもヒッピーのようであり、なかにはスーパーマンのSの字を胸に描いたシャツを着ているものもいる。戦争という背景がこの映画を、同じ精神病院を描いた『カッコーの巣の上で』や『ショック集団』よりも、むしろアルトマンの『M★A★S★H』のような作品に近づけているといえるかもしれない。

物語は、この城にステイシー・キーチ演ずる謎めいた新任精神分析医が赴任してくるところから始まる。ここの患者たちはいずれも知的レベルが高く、なかには戦争を忌避するために狂気を装っているだけのものもいるかもしれない。そんなハムレット的主題が導入されるのだが、事実、患者のひとりは、ハムレットの狂気が本物か演技なのかを分析医に向かってたずねさえするのだ。そもそも、この分析医自身、最初からどこか様子がおかしい。そして、彼がときおり見る幻覚のなかで、ベトナム戦争で大勢のベトナム人を虐殺したといわれるキラー・カーン将軍と呼ばれる謎の人物が浮かび上がってくる。分析医はこの人物といかなる関係があるのか・・・。城のなかで静かに展開していた物語は、クライマックスで怒濤のような暴力シーンを爆発させて終わる。

ステイシー・キーチの分析医と心を通わす元宇宙飛行士の患者役に、『傷だらけの挽歌』のスコット・ウィルソン。さらには、『第十一号監房の暴動』のネヴィル・ブランドまで出ているのだから、泣かせる。


『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』

Twinkle Twinkle Killer Kane (The Ninth Configuration)

1980年/アメリカ/シネスコ/カラー/118分

監督・原作・脚本 ウィリアム・ピーター・ブラッティ 

音楽: バリー・デ・ヴォーゾン

出演: ステイシー・キーチスコット・ウィルソンジェイソン・ミラーエド・フランダース、ネヴィル・ブランド、モーゼス・ガン、ジョージ・ディセンゾ、ロバート・ロジア、トム・アトキンス、アレハンドロ・レイ、ジョー・スピネル、スティーヴ・サンダー、リチャード・リンチ、ブラッドフォード・ディルマン

トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン

 
画質: 普通
字幕・音声: 日本語字幕のオン・オフのみ
特典映像: なし
その他: