アンドレ・ド・トス『無法の拳銃』Day of the Outlaw ★★★☆
これは、最近テレビで見た映画のなかでいちばん感銘を受けたものですね。アンドレ・ド・トス作品では、ホームページ「西部劇ベスト50」で紹介した『スプリングフィールド銃』もよかったが、これのほうが断然いい。
アウトローの時代も終わりかけていて、かつては拳銃にものをいわせて町を守ったカウボーイの主人公ロバート・ライアンは、町の住民、特に農民たちにとって、疎ましい存在となりつつある。とりわけ、密かに心を寄せている人妻の夫である農民のひとりと、彼は激しく対立しあう。実はその人妻と彼とのあいだにはひとかたならぬ関係があったのだということがやがてわかるのだが、このあたりは『大砂塵』を思い出させる(実は、この映画の脚本も『大砂塵』と同じフィリップ・ヨーダンが書いているんです。やっぱりたいした脚本家ですね)。
酒場で、ライアンと農民が一触即発の状況になり、今まさに拳銃を抜こうとしていたとき、扉を開けて盗賊のボスが部下を引き連れてはいってくる。彼らは軍の金を奪って逃亡している北軍の兵士たちなのだ。ここから話が急展開する。この町まで逃げてきたのはいいものの、ここは高い雪山に背後を遮られた行き止まりの町。いわば陸の孤島だ。この閉鎖的な状況のなかで、盗賊たちと町の住民との緊張に満ちた関係が展開してゆく。いわば、ジョン・ヒューストンの『キー・ラーゴ』の西部劇版とでもいうべき心理的サスペンスをド・トスは的確に演出している。
『キー・ラーゴ』のエドワード・G・ロビンソンの存在にあたる、元北軍大佐の盗賊のボスを演じているのが、ニコラス・レイの『エヴァグレイズを渡る風』のバール・アイヴス。彼が被弾して重傷を負っているところから、彼の部下とのあいだにも権力をめぐる緊張関係が次第に高まってゆく。とりわけ、欲望をむき出しにした部下のひとりを演じるジャック・ランバートは、あいかわらずどう猛な顔をしていてすばらしい。
クライマックスは、西部劇には珍しい雪山の風景のなかで展開する(この辺はウィリアム・ウェルマンの『廃墟の群盗』を思わせる)。馬が雪の中に飲み込まれて立ち往生し、盗賊たちも次々と凍死してゆく。西部劇で人が凍死するのはロバート・アルトマンの『ギャンブラー』だけではなかったのだ。この美しいイメージを撮影したキャメラマンは、ラッセル・ハーラン。脚本よし、撮影よし、演技よし。忘れられた傑作ですね(それにしては、あんまり話題になっていないようだが。だいいち、アンドレ・ド・トスは全然キーワードにもなってないし。やっぱり蓮實重彦がなんか書かないと、こういう映画は評価されないのかねェ)。ド・トスの映画では『赤い砦』The Indian Fighter というのを前々からみたいと思っているのだけれど、日本で見るのは今のところ難しそうだ。
フォードやホークスの映画は、だれが見てもすごいというのはわかるし、みんなそんなことは知っているわけだから、あまりブログを使ってそんなことを書いても仕方がない。このブログでのわたしの使命は、ド・トスのような作家を孤独に擁護・顕揚していくことだ、と大げさにいってみる(結構本気なんだけどね)。