デルマー・デイヴィス『縛り首の木』The Hanging Tree ★★☆
デルマー・デイヴィス(デイヴスとも書く)の西部劇の代表作に数えられる一本。西部劇のかたちを借りた文芸映画。リンチ映画。50年代的西部劇と60年代的西部劇の過渡期的作品。
この映画を見直すのはずいぶんひさしぶりだ。やはり悪くない映画だった。
ゴールドラッシュにわくモンタナの金鉱町が舞台。そこに、暗い過去を持つ医者(ゲイリー・クーパー)がやってくるところから物語は始まる。彼は集落を見下ろす小高い丘の上に居を構えるのだが、この地理的設定はクーパー演じる医者の、傲慢、孤独、傍観者的態度、などを強調すると同時に、デイヴィスが得意とする(それしかないという人もいる)クレーン撮影の見せ場を作ることにもなるだろう。
彼は、砂金を盗もうとして追われた若者を助手(あるいは奴隷)としてかくまう。やがて、強盗に襲われて瀕死の重傷を負い、一時的に視力を失った美人のスイス女(マリア・シェル)が医者のところに運ばれてくる。彼女と医者とは次第に惹かれあってゆくのだが、どうやら妻に裏切られ自殺された過去を持つらしい医者は、だれも彼女に近づけないようにする一方で、あえて彼女を遠ざけようとする。そこに、彼女に下心を抱く町の顔役(カール・マルデン)が加わって、人間関係は次第に緊張感をはらんだものとなって行き、やがて金鉱が見つかって町の住民の興奮がピークとなったとき、物語は急転直下クライマックスへとむかってゆく。
『決断の3時10分』同様、内容の新しさでユニークな西部劇となり得ているが、脚本には物足りない部分がある。若者ベン・ピアッツアとクーパーとの関係は中途半端にしか描かれていないし、ピューリタン的なご婦人たちの独善的振る舞いを描く筆致も詰めが甘い。最後に暴徒となった住民たちがクーパーをリンチにかけるに至る過程も、今ひとつ説得力に欠ける。
ゲイリー・クーパーの存在がすべてを救っているといっていいだろう。
『決断の3時10分』3:10 to Yuma