明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ジガ・ヴェルトフ『レーニンの三つの歌』


ジガ・ヴェルトフ『レーニンの三つの歌』★★★

レーニンの死後に完成されたドキュメンタリー。トーキー映画だが、実質的には音楽付サイレント映画に近い。全体が三つのパートに分けられ、人民がレーニンを讃える三つの歌として構成されている。第一の歌は、レーニンの教えに感化されたイスラムの女性を描いたもの。9/11後のアフガンやイラクでヴェールを脱ぐイスラム女性の姿を、欧米のメディアはまるで鬼の首でも取ったように報道したものだが、ここでもヴェールを脱ぐイスラム女性の姿が光明へとむかう歩みのように描かれている。資本主義においても、共産主義においても、ヴェールは無知蒙昧の象徴になっているところが面白い。原将人は『初国知所之天皇』で、「日の丸は美しい」とあえてつぶやいてみせた。「ヴェールは美しい」といえるようになってはじめて民主主義は根付いたことになるのだろう。

映画の冒頭、レーニンが安置されている建物のそばの公園にぽつんと置かれた白いベンチが映し出される。この寂しげなベンチのイメージはその後もなんどか繰り返し登場する。生前のレーニンがよく座っていたベンチだ。マルコ・ベロッキオの『夜よ、こんにちは』に挿入されている薄雪の積もったベンチをとらえた美しいモノクロ映像は、第二の歌の最後にあらわれるイメージをそのまま引用したものである。『レーニンの三つの歌』では、レーニンは死んでも革命はつづくと力強く歌われるが、ベロッキオの映画では、主人が不在のベンチは潰えた理想のように淡く儚くあらわれて消えてゆく。

この映画はアメリカではDVDが出ている(下の写真)。同じDVDには『キノ・グラース』(KINO-EYE)も収録されている。わたしはフィルムでなんどか見ているが、地方ではほとんど見る機会がない映画だろう。このDVDはベロッキオの映画を見る前に買っていたものだが(もちろん、ヴェルトフの映画が引用されているなんてことはまったく知らなかった)、長いあいだ開封もせずにほったらかしてあった。なにかのきっかけがないとなかなか見る気にならないものだ。買ったまま見ずにいるDVDがどんどんたまりつつある。わざわざ海外に注文して、そのまま見ないでいるうちに日本版が発売されてしまうという場合も。まあ、日本で買うよりたいてい安いからいいのだが……。




日本で出ているヴェルトフのDVDは今のところ『カメラを持った男』だけである。しかし、この日本版にマイケル・ナイマンがつけている音楽の評判は微妙だ。