▽橋口亮輔『ハッシュ!』(2001)★☆
最近の日本映画でよくみかける長回し撮影は、わたしには演出の放棄としか思えない。アンゲロプロスの長回しは、的確なショットを積み重ねて演出できる人があえてワンショット=ワンシークエンスを使っている長回しであり、このワンショットのなかではいわば内部的に編集がなされている。そこではまた、フレームの外(hors champ)にあるものが絶えず意識されており、フレームの内と外との緊張関係がそれを見る観客をも深い緊張状態におく。一方、たとえばこの映画で使われている長回しは、どこにキャメラをおいていいかわからず、どうやってショットをつなげていいかわからない人間が、その責任を放棄した結果にすぎない、と思える。
▽熊切和嘉『アンテナ』(2003)★★
田口ランディの原作に何一つつけ加えていない引き算の映画。しかし、退屈せずに最後まで見ることはできる。
▽斎藤久志『いたいふたり』(2002)★★
わたしの好きな斎藤久志監督の作品であるが、『サンデイドライブ』などに比べると若干緩い仕上がりになっている(このゆるさはDV的といっていいのかもしれない。まあ、この緩さが斎藤監督の映画の特色でもあるのだが)。遠くに離れていても一方が痛みを感じればもう一方も痛みを感じる、文字通り痛みを共有する夫婦(唯野美歩子と西島俊之)の物語。興味深いテーマではあるが、物語は完全に説得力あるものにはなっていない。
すべてを傍観者的に見て記録している妻の弟役で、唯野美歩子の実弟、唯野友歩が出ている(これがそっくりな顔をしていて笑わせる)。嫉妬深くてすごく嫌みな画家の役で出ている俳優がどこかで見た顔だと思っていたら、原一男だった。他にも廣木隆一、井口昇、篠原哲雄、富岡忠文、緒方明(『いつか読書する日』)など、日本映画の監督が総出演しており、斎藤監督の人脈の広さをうかがわせる。そういえば『サンデイドライブ』の主演も塚本晋也だった。
テレビで放映される映画はどんな無名監督の作品もほとんど見ているわたしだが、これほどひどい代物を見るのはひさしぶりだった。まだそれほど有名でなかった頃の仲間由紀恵の女子高生姿(水着姿もあり)が見られるという楽しみはあるが、それ以外に見るべきところはなにもない。村上龍の原作のほうがはるかにいいです。
以上すべて、『リアリズムの宿』の山下敦弘などと同じ大阪芸大出身の監督作品。この大学の卒業生たちが日本映画の活力のひとつとなっているのはたしかだが、わたしは彼らの映画にどこかで違和感を覚えてしまう。一言でいうならそこには歴史意識が欠けている(映画的にいうなら、フレーム外に対する意識の欠如ということになろうか)。映画の歴史ももちろんだが、より大きな「歴史」に対する無知・無関心が、なにも彼らの映画だけではなく日本映画の大部分を支配しているように思えてならない。