明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

コメディ映画 ベスト50(続き)


「コメディ映画 ベスト50」戦前トーキー編(スクリューボール・コメディの時代)をとりあえずアップ。サイレント映画編をアップしてから一月近くたってしまった。まだ半分の28本しか紹介していないのに、なんだか面倒くさくなってきた。

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この数日、いろいろなことがあった。しかし、首相の靖国参拝も、それに対する近隣諸国のおきまりの反応も、みんな想定内のもので、いい加減うんざりさせられる。靖国問題に関わりがあるらしい放火事件も、いかにも右翼のやりそうなことにすぎず、ニュースを聞いたときは驚きこそすれ、これもすぐに見慣れた構図のうちに収まってしまう。

全米を騒がしていた未解決事件の容疑者が逮捕され、連日テレビのワイドショーをにぎわせている。殺された幼女の両親が長年にわたってメディアによって容疑者扱いされてきたことにふれて、神妙な顔をしたテレビのコメンテーターが「忸怩たる思いで」メディアの責任について語る光景もすっかり見慣れたものだ。

そんななかでひとつ驚いたニュースがある。『ブリキの太鼓』で知られるドイツの作家ギュンター・グラスがかつてナチスの親衛隊に入っていたことを告白したことだ。戦後、歴史の過誤を批判する小説を書き続け、東西ドイツ統一、アフガン問題などについても鋭い視点から発言を重ね、ノーベル賞まで取っているドイツ最大の作家の一人がここに来てナチスとの関係を告白したわけである。正直いって、それほど思い入れのある作家でもなかったのだが、このニュースはかなりショッキングだった。ここ数日、このことが頭から離れなかった。もっともそれでなにかの結論が出たわけではない。いろんな思いが頭のなかをめぐっただけだ。

浅田彰はかつて、ギュンター・グラスの「合理主義を超えた野生の想像力」を初期の大江健三郎と近づけて語ったことがあるが、今度の出来事はなんだか『万延元年のフットボール』の曾祖父とその弟のエピソードを思い出させないでもない。ボルヘスのいう「裏切り者と英雄のテーマ」。ナチスの闇の深さを改めて思い知った。ムンクカンディンスキーミース・ファン・デル・ローエ、そしてフリッツ・ラングさえ。ゲッペルスとの会談をめぐるエピソード(その日のうちにドイツを発ったという)は有名ではあるが、それはどうやら事実とは異なるらしいことが今ではわかっているのだ。

ファシズムの魅惑。それはいったい何だったのか。そこにはいかなる磁場が働いていたのか。いまだによくわからない。はたして自分がそこにいたとき、巻き込まれずにいることができるのか。わたしにとってこれは永遠のテーマのひとつだ。

まったくの偶然なのだが、このニュースを聞いたのは、ミシェル・トゥルニエ『魔王』を原書で読んでいるときだった(翻訳には若干問題があるので)。『ブリキの太鼓』を映画化したフォルカー・シュレンドルフが映画化したことでも知られる作品である。ナチスをテーマにした異色の小説であり、おまけに主人公が根も葉もない少女暴行で拘留されるというエピソードまである。この偶然の符合に、これも「しるし」のひとつなのかと恐れおののいているところだ。