Planet Studyo Plus One にチェコ映画を見に行く。意外なことに、満員ではいりきれないほどだった。一応関係者なので、お客よりいい場所に堂々と座っているわけにもいかず、『火事だよ!カワイ子ちゃん』のときは、お客が落ち着いたあとで、スクリーンの手前の空いた場所に座ってみることになる。スピーカーが近くて、声がでかすぎ、コメディというよりはアクション映画でも見ているような気になった。
ミロシュ・フォルマン『火事だよ!カワイ子ちゃん』(67)★★☆
『アマデウス』のミロシュ・フォルマンがチェコ時代に撮った喜劇。ほぼ全編が、チェコの田舎町の消防署が主催でおこなわれるパーティの場面だけで構成されている。パーティでは「ミス消防署」のコンテストがおこなわれ、それに優勝した美女が元消防署長に記念品を手渡すことになっている。消防署のおじさんたちは、だれもかれも子供じみていて、おまけに好色だ。テーブルのケーキや、くじ引きの賞品を盗むものがいたり(その上、明かりが消えたときに、盗んできたものを返しに来たところを見つけられて気絶する)、自分の娘をコンテストに参加させろとだだをこねるものがいたり。コンテストの審査は、なぜか即興の水着ショーに早変わりし、元消防署署長は、何度もタイミングを間違えて舞台に進み出て、そのたびに連れ戻される。映画はパーティ会場のなかだけで展開していくのだが、最後の最後に、火事の場面でキャメラは外に出る。寒い夜空の下で燃え上がる自宅を、惚けたようにいすに座って眺める老人。
結局なにごとも起こらないばか騒ぎだけの映画であるが、このひょうひょうとした軽さはフォルマンをチェコから亡命させるに十分だった。プラハの春がソ連によって圧殺されるのは、この翌年のことである。
ヤン・スヴィエラーク『ドライブ』★☆
ただのロードムーヴィー。風景がきれいなので、それなり感じよく見られる。ヴェンダースふうというよりは、アメリカン・ニューシネマふう。が、ヴェンダースの映画史に対する諦念も、ニューシネマの甘ったるいナルシシズムさえもなく、別にこれといってなにもない。まあ、なにかが動いていればそれでいいというわたしのような人間には、それなりに楽しめた。
たしか、この『火事だよ!カワイ子ちゃん』と『ブロンドの恋』は、わたしがパリではじめてみた映画だったような気がする。何しろ大昔の話なので記憶が定かでないが、「パリスコープ」をペラペラとめくっていたらミロシュ・フォルマンの映画が街の映画館で上映されているのを発見して、驚いたことだけは覚えている。その時はじめてみたチェコ時代のフォルマンの映画の新鮮な印象は、残念ながら、今回見直してみて、若干薄まってしまったが、『アマデウス』よりはよほど面白いことはたしかである。
それにしても、こういうものを、いくら名画座とはいえ、都会の真ん中の映画館で上映しているというのはすごいと思ったものだ。ローレル&ハーディのコメディだとか、ラオール・ウォルシュの『大雷雨』だとかが、当たり前のように上映されている。『鉄腕ジム』は、たしかシャンゼリゼの近くの映画館で見たはずだ。当時日本ではほとんど見ることができなかったカサヴェテスの映画は、一年中パリのどこの映画館でも上映されていた。まさに、なんでもありである。しかし、わたしがほんとにびっくりしたのは、ポンピドゥー・センターの近くのバーガーキングの広告ポスターにランドルフ・スコットの写真が使われているのを見たときだ。世界中の映画が見られるということでは東京が世界一の映画都市だとよくいわれるが、あれを見たときは、日本は負けたなと思ったね。