明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『怪奇大作戦』


ゴールデンウィークNHK BS で「怪奇大作戦」が連夜放映された。

ウルトラマン」で知られる円谷プロが1968年、総力をあげて作り上げたテレビドラマシリーズである。小さいころ再放送で見た記憶があったのだが、今度放映されたのを見ていてもなにも思い出さないところをみると、名前だけ聞いていて実際にはほとんど見ていなかったのかもしれない。見ていなくても見た気になるぐらい伝説的なテレビ番組ということだろうか。


科学捜査研究所、通称 S.R.I. のメンバーたちが、毎回起きる不可思議な事件を科学的観点から説き明かしてゆくというドラマで、特異な事件の裏に潜む人間のゆがんだ深層意識、暗く怪しい雰囲気、シリーズを通して維持されるクオリティーの高さなどから、いまでも根強いファンをもつ。

30年以上前のドラマにしてはやけに画質がいいなと思っていたら、やっぱりデジタルリマスター版を放映していたようだ。フィルムで撮られている画面だけがもつ独特の手触りは、いまのテレビ・ドラマにはないものである。どこもかしこも照明があたっていて陰のない最近のドラマとは違って、画面がとにかく暗い。暗すぎて俳優の顔が見えないこともしばしばだ。こんなのはいまではあり得ないだろう。

68年から69年にかけて全26編のエピソードが撮られている。なによりもタイトルがいい。「壁ぬけ男」「青い血の女」「散歩する首」「ジャガーの眼は赤い」「死者がささやく」「殺人回路」「京都買います」などなど。江戸川乱歩を思わせるようなタイトルがずらりと並ぶが、怪奇と科学のせめぎ合いはむしろエドガー・アラン・ポーだろうか。マニアのあいだではシリーズ晩年の京都ロケもの、特に「京都買います」の人気が高い。京都の仏像が次々と消失する事件が起き、容疑者として浮かび上がってきた仏像を溺愛する若き女性に、S.R.I. のチーフ(でいいのか?)岸田森が珍しく恋をする話で、怪奇色よりもむしろ人間ドラマに焦点を当てた作品だ。小沼勝の『古都曼陀羅』を思い出させなくもない雰囲気があり、悪くはないのだが、個人的には、怪奇と科学が絶妙のバランスを保っている「恐怖の電話」や「かまいたち」などのほうがわたしは好みだ。

かまいたち」では、謎に満ちた猟奇的バラバラ殺人事件は科学的解決を見るものの、犯人の動機は一切説明されないまま終わる。異常な父娘愛を描いた「白い顔」は、いま見ると笑える部分も多いが、事件が解決したあとのラストカット(ケーキを顔に受けてしまった少年の顔が、能面へとオーバーラップし、一瞬にして笑いを凍り付かせる)がなんともなぞめいていて忘れがたい。原爆の記憶を背景に、ジョルジュ・フランジュの『顔のない眼』を彷彿とさせる猟奇殺人を描く「死神の子守歌」もなかなかの名作だ。「呪いの壺」では、最後の炎上シーンの特撮のあまりのリアルさに目を見張らされる。本当に寺が燃えていると思った人がいたそうだが、嘘ではないだろう。わたしも一瞬だまされたぐらいだ。「人食い蛾」では、作り物の殺人蛾のちゃちさにあっけにとられたものだが、円谷プロはこういうミクロな特撮よりも、「呪いの壺」の炎上シーンのような大仕掛けな特撮でこそ真価を発揮するようだ。


それにしても岸田森は名優だね。岸田森映画祭というのをやれば、すごいラインナップになりそうだ。

『放浪記』、『水で書かれた物語』、『斬る』、『帰ってきたウルトラマン』、『血を吸う薔薇』『黒薔薇昇天』、『ダイナマイトどんどん』、『蘇える金狼』、『総長の首』, etc.

ざっと挙げただけでもすごい。まあ、絶対無理だろうが・・・。岸田今日子をいとこにもち、樹木希林の元旦那というぐらいでは、人は集まらないだろう。




怪奇大作戦」の現代版リメイク「怪奇大作戦 セカンド・ファイル」も同時に BS2 で放映された。設定はオリジナルとほぼ同じで、岸田森が演じた役を西島俊之が担当している。清水崇中田秀夫など、そうそうたる監督が演出しているのだが、オリジナルの風格にはやはり及ばない。オリジナルのほうは、『無情』で知られる実相寺昭雄(セカンド・ファイルの製作総指揮もやっている)などが監督を手がけているのだが、監督の力というよりは、むしろスタッフ・俳優すべて含めた総合力だろう。ちなみに、オリジナルの脚本には、『野獣都市』福田純大島渚吉田喜重との仕事で知られる石堂淑朗などが参加している。すごいね。