明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

今村仁司『アルチュセール』


今村仁司、死んでいたのか。

今月の5日に亡くなっていたらしい。65歳。若いね。

正直いって、わたしにとって特に重要な人物ではなかったけれど、80年代にフランス現代思想を日本に紹介するに当たって一定の影響を与えた人だったと思う。その意味では、学生時代にいろいろお世話になった。自宅のライブラリーを調べてみたら、今村仁司の著書は3冊しかもっていなかったが、ボードリヤールの翻訳や、寄稿している雑誌などを含めれば、この数は一挙にふえるだろう。図書館で借りて読んだ本まで数えたら、今村仁司の本は相当読んでいたかもしれない。もっとも、そのほとんどは流し読みだったと思う。90年代以後は、なにをやっていたのかほとんど知らなかった。わたしにとってはその程度の存在だった。

清水書院から出ている「人と思想」シリーズにはいっている『アルチュセール』は、わたしが手元にもっている今村仁司の数少ない著書のひとつだ。アルチュセールの生涯と思想が非常にわかりやすくコンパクトにまとまっていて、入門書のお手本のような本だといまでも思っている(このシリーズでは、工藤喜作の『スピノザ』と並んで、出色の出来だと思う)。京大の学園祭で、丹生谷貴志アルチュセールについて講演を行ったとき、冒頭いきなり、さっきいった清水書院の『アルチュセール』を取り出して、「ぼくがいいたいことはここにほとんど書いてあるんで、もういうことほとんどないんですよね」といったのを覚えている。それは、京大出身の今村への挨拶代わりの意味もあったのだろうが、そこには少し皮肉も混じっていたような気もする。

蓮実重彦柄谷行人のような強烈な個性はなく、浅田彰のようなシャープさとオールマイティなフットワークのよさもなかった。しかし、マルクスアルチュセールベンヤミンブルデューといった限られた思想家にとことんこだわりつづける腰の重さや、どこまで行っても書き手の身体が透けて見えてこないようなところは、ひょっとしたら、難解な思想を広く人に知らしめるにあたって、理想的だったといえるのかもしれない。