明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。































このサイトはPC用に最適化されています。スマホでご覧の場合は、記事の末尾から下にメニューが表示されます。

2020年10月31日(土)
連続講座:20世紀傑作映画 再(発)見
第10回 最も物議をかもしたアメリカ映画──グリフィス『国民の創生』を再考する
http://kobe-eiga.net/program/2020/10/5558/
予約制(電話・メールにて予約受付中です)


「ダグラス・サーク Blu-ray BOX」
(『心のともしび』『大空の凱歌』『翼に賭ける命』)

マルグリット・デュラス Blu-ray BOX
(『インディア・ソング』『ヴェネチア時代の彼女の名前』『バクステル、ヴェラ・バクステル』『トラック』『船舶ナイト号』)

---

評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

To Each His Own〜ミッチェル・ライゼン覚書



今年のカンヌ映画祭は、松本人志の初監督作品が出品されるということで、いつにもまして日本での注目度が高い。また、いまやカンヌでは常連となった北野武が、今回は、世界を代表する監督35人のひとりに選ばれたことも話題になっている。この35人の監督たちが「劇場」をテーマにそれぞれ撮り上げた3分のショート・ムーヴィーを集めたオムニバス映画が上映されるのである。ところで、日本のテレビニュースで知ったのだが、このオムニバス映画には「To Each His Own Cinema」という名前がつけられているらしい。「To Each His Own」というのは、ミッチェル・ライゼンが46年にオリヴィア・デ・ハヴィランドでアカデミー主演女優賞を取った『遥かなる我が子』の原題である。シネフィルの国フランスのことだから、それを意識したということも考えられると思っていたのだが、このタイトルは「Chacun son cinéma」というフランス語を単に英語に直訳したに過ぎないらしい。

その日本のテレビニュースでもそうだったし、インターネットの日本語ニュースサイトのいくつかでも、「To Each His Own Cinema」には世界各国から35名の監督が選ばれたと紹介している。しかし、このことをとりあげた海外の記事にはどれも「33-short-film」 というふうに、「33本」と書かれている。2本少ないのはなぜか。実は、35人と書いてある記事は間違いとはいえないまでも正確ではなく、厳密には、33組35人といわなければならないのである。なかにはダルデンヌ兄弟のようにふたりで一本という場合があるからだ(もう一組はたぶんコーエン兄弟だろう。ちなみに、このダルデンヌ兄弟の短編は、コンペのどの作品よりもいいといっている批評家もいた)。それにしても、テレビの画面で北野武の横にヴェンダースオリヴェイラが立っているのに、そのことをなにもコメントしないテレビのコメンテーターっていうのはいったいなんなのかね。


さて、ちょっと強引だが、今日はカンヌのことではなく、このミッチェル・ライゼンという映画監督のことについて書きたいと思っている。日本ではあまり知られていない監督だ。いまではほとんど忘れ去られているといっていい。こういう機会でも利用しないと書くきっかけがないからだ。

『映画となると話はどこからでも始まる』淀川長治蓮實重彦山田宏一)で、「ミッチェル・ライゼンという監督なんかはどうだったのでしょうか。戦後は、『別働隊』という戦争メロドラマ、というよりも、大ヒットした『モナリザ』という主題歌だけで覚えている作品があるんですが・・・」、と、おそるおそる伺う山田宏一に、淀川長治は、「つまらない人だね。彼は第二のセシル・B・でミルになろうとしたんですよ。でも、やっぱりスケールがちいちゃかったの」と、一刀両断している。しかし、シネフィルのあいだでは、ミッチェル・ライゼンはいまでも結構評価は高い。実をいうとわたしはライゼンの作品はほとんど見ていないのだが、手元の本を頼りに簡単な紹介を試みてみる。ここに書いたことが回り回って作品を見る機会につながる、と、いうことはまあないだろうが、知らない人にはなにかの参考になるだろう。

淀川長治がデミルの名前を出したのは、ミッチェル・ライゼンが最初はデミルのコスチューム・デザイナーとして出発したからだ。『男性女性』をはじめとするデミル作品のほか、アラン・ドワンの『ロビン・フッド』、ラオール・ウォルシュの『バグダッドの盗賊』などの衣装もライゼンが手がけたものである。ルビッチがアメリカに渡った直後に撮った『ロジータ』の衣装もライゼンの担当だった。その後、1933年に監督として自らメガフォンを撮るようになったミッチェル・ライゼンは、『春を手さぐる』(Hands Across the Table, 35) あたりを皮切りに、上品で洗練されたコメディを得意とする「偉大なるマイナー作家」へと成長してゆく。とりわけ、プレストン・スタージェス脚本による『街は春風』(Easy Living, 37)、ビリー・ワイルダー脚本による『ミッドナイト』(Midnight, 39, 未)の2作は傑作といわれている。

一方で、『スウィング』(Swing High, Swing Low,37)、『遥かなる我が子』といったメロドラマも数多く手がけているが、こちらのほうの作品は彼のコメディほどには成功していないようだ。戦後は、じょじょに輝きを失っていったようだが、そのなかでも、ピグマリオンをテーマにしたコメディ『Kitty』 (45)や、ライゼンがフィルム・ノワールのジャンルで唯一成功した作品といわれている、ウィリアム・アイリッシュ原作の映画化『No Man of Her Own』(50)などの佳作が撮られている。

その後は映画界から退き、テレビに活動の場を移したようだ。

1898年生まれ。1972年にロサンジェルスで死亡。


わたしは『淑女と拳骨』(NO TIME FOR LOVE, 43) という不思議な邦題の作品が前々から気になっていて見たいと思っているのだが、淀川長治は、「ミッチェル・ライゼンは一目でホモみたいな人で、なよなよして、映画も一作たりとも感心したものはない」と手厳しい(結構なよなよしていた淀川がこういうことをいっているのが笑える)。その淀川長治が、「ライゼンとしては思いもかけぬ、間違ってできたほどの傑作」と語っている『絢爛たる殺人』(Murder at Vanities, 34)もぜひ見てみたい作品だ。もっとも、いまのところどちらも日本海外ともに DVDにはなっていない模様。

(『スイング』はジュネス企画からビデオが出ている。根気よく探せばレンタル・ショップで見つかるかもしれない。)