明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ジャック・ロンドンの小説〜『死の同心円』『殺人株式会社』


別に理由はないが、講談社英語文庫でジャック・ロンドンの『The Call of the Wild』を読み始める。近くの図書館に申し訳程度においてある洋書のなかで読みたいのはこれだけだったので、借りてきたのだ。

やっぱり動物ものはいいねェ。平凡な人生を生きているせいか、冒険に憧れるのだが、真の「冒険」を描いた作品はなかなか見つからない。冒険を描いた小説はそれこそ山ほどあるが、冒険小説はつまるところ動物小説に行き着くのだ、というのがわたしの(あまり根拠のない)持論だ。うさぎたちの大移動を描く『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』とか、読んでて血が騒ぐんだよね。

『荒野の呼び声』(『野生 [性] の呼び声』という訳名もある)は、ゴールド・ラッシュを背景に、次第に野性に目覚めていく犬の姿を描いた小説である。わたしは基本的に猫派なのだが、この小説を読むと犬も悪くないんじゃないのと思えてくる。これの姉妹編ともいえる『白い牙』も動物文学の名作だ。とくに、『荒野の呼び声』は、ウィリアム・ウェルマン監督作をはじめとして、これまでに何度も映画化されている。ロンドンの映画化作品では、あのルチオ・フルチが監督した『白い牙』が、ちょっと見てみたい(フルチ唯一の文芸映画といわれている。たぶんつまんねぇ映画なんだろうな)。

しかし、ジャック・ロンドンは、これらの動物もの以外にも、かなり変なものをたくさん書いている。ボルヘスが編纂した「バベルの図書館」の第五巻には、まったく逆の発想から透明人間になる方法をあみ出した2人の科学者が、透明状態のまま宿命的な闘争をおこすSF的物語「影と光」ほか、「マプヒの家」「生命の掟」「恥っかき」「死の同心円」の全5篇が収録されていて、動物文学以外のロンドンを知るにはもってこいの本なのだ。

この作家の作品には、悪夢のような全体主義社会を描いてヒトラーを予言したともいわれる『鉄の踵』など、SF・ミステリ・怪奇幻想の分野に分類されるような風変わりなものが数多い。遺作となった『殺人株式会社』では、殺人を事業として行なう会社の冷徹なメカニズムが描かれる(ロバート・L・フィッシュが書き継いで1963年に出版された。 『全集・現代世界文学の発見2/危機にたつ人間』 に翻訳が収録されているが、これも絶版)。『殺人株式会社』は、ベイジル・ディアデン監督によって『世界殺人公社』として映画化された。


この講談社英語文庫は後ろに長い注がついている。語学的な説明はほとんどないのだが、イディオムの意味などをチェックするだけでも勉強になってよい。そこそこの実力があって、英語のリハビリを考えている人にはお勧めだ。残念ながら、これもいまは絶版の模様。

数年前、『決定版 ジャック・ロンドン選集』が刊行され、ジャック・ロンドンの代表作はすべてこれで読めるようになった。しかし、値段がちと高いので、できれば短編を集めた文庫本を出してもらえるとありがたい。