明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『Target Earth』〜シュールで、チープで、あっけない侵略ものSF


シャーマン・A・ローズ『Target Earth』


50年代に撮られた宇宙人侵略もの。へなちょこぶりをバカにするつもりで見たが、意外と面白かった。


監督の名前は正直いって初耳だ。30年代から映画を撮っているベテランのようだが、50年代からはもっぱらTVドラマの演出ばかりをしている。ちょっと調べてみた限りでは、日本では一本も監督作は公開されていないようだ。主演はリチャード・デニング。いかにもB級な俳優である。ここではヒーローを演じているが、どちらかというと、異星人に体を乗っ取られて操られ、ヒーローを襲う役でもやってたほうが似合う男優だ。ヒロイン役のキャスリーン・クローリーも、映画女優というよりはTV女優といったほうがよい地味な存在で、まったく印象に残らない。


ホテルの一室で女が目覚めるところから映画ははじまる。女のかたわらには睡眠薬が転がっている。どうやら自殺しようとしたが、できなかったらしい。女は自分が眠っているあいだになにか異変が起こったことに気づく。部屋の電気はつかないし、隣の部屋をノックしても応答がない。不安になって通りに出てみるが、そこにも人気がない。街中がもぬけの殻になっているのだ・・・


この出だしだけで、わたしなんかは、いいなぁと思ってしまう。小さいころテレビで見た映画で、主人公が地下鉄工事かなにかで地下で潜っているあいだに、地上で世界が滅亡していたというSFがあった。地上に出てくると街が壊滅していて、人っ子ひとりいなくなっている。そのデペーズマンというか、途方に暮れた感じがなんともいえなかった。いまとなってはタイトルもなにもわからないのだが、いまだに忘れられない作品だ。突然人が消えてしまった街というイメージには、抵抗しがたい魅力がある。

この映画の冒頭の部分にも、そんなわたしの琴線に触れる悪夢の雰囲気が漂っていて、思わず真剣に見てしまう。この場面は、ロサンジェルスの街頭で、無許可で撮影されたらしい。そういう事情もあるのか、ときおり挿入される街の全景ショットがスチール写真になっていたりするのが、いかにも低予算映画である。


実は、ヒロイン以外にも街に何人か人が残っていたことがわかり、彼らが集まってさてどうしようかと思っていたところに、ロボットのかたちをした金星人が現れる。ビルの壁にロボットの影が映るのを見てヒロインが悲鳴を上げるところはまあよくできている。しかし、ロボットが実際に姿を見せるところで、そのあまりにもチープさに力が抜けてしまう。日本の「ウルトラマン」シリーズや、ロボット対戦アニメでは、ヒーローや怪獣はまわりの建物よりも背が高いというのが暗黙のセオリーだ。『大日本人』でもそれはほぼ踏襲されていた。しかし、アメリカ映画ではこの掟は必ずしも守られていない。ハリウッドで映画化された『ゴジラ』はビルよりも背が高かっただろうか。よく思い出せない。まあどうでもいい。とにかく、この映画のロボットはそう高くもないビルの半分ぐらいの大きさだ。

そんなロボットが何体も街をうろうろしていて、人間を見つけると頭部から発射するビームで人間を殺戮してゆく、ということになっているのだが、画面に登場するロボットは必ず一体だけ。ロボットが何体も同時に姿を見せることはない。どうやら、こんなにチープなロボットでも予算の都合で一体しか作れなかったらしく、その一体を使い回して何体もあるように見せかけていたらしい。なかなかのB級魂だ。しかし、これだけでストーリーをもたせるのはさすがに無理があると感じたのか、映画はピストルをもった逃亡中の殺人犯を登場させて、サスペンス色を脚本に付け加えている。後半はほとんど心理サスペンス映画だ。ロボットはときおり窓の外を通りすぎるだけで、登場人物を密室に閉じこめる口実をあたえる以外には、ストーリーにとくに影響を及ぼしていない。

侵略ものSFとしては異例なのは、UFO が一度も画面に出てこないことだ。冒頭、宇宙から地球に何者かが向かってくるのが主観映像で示されるだけである。主観映像だから、当然 UFO の姿は画面には写っていない。実に経済的といえば経済的な作り方である。

結末も、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』を思い出させるあっけないものだ。ある特定の周波数の音波をスピーカーから大音響で流すと、ロボットは嘘のようにばったりと倒れて機能を停止してしまうのだ。


これも日本では未公開である。アメリカでは DVD 化されている。まあ、わざわざ見るほどの映画ではないと思うが、B級映画ファンなら目を通しておいてもいいだろう。