明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。





























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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

石田民三『花火の街』


パソコンの前の椅子にネコが居座ってしまったので、しばらく更新できなかった。まあ、別に書くこともなかったのだが。


京都文化博物館石田民三の『花火の街』を見に行ってきたので、だらだらと感想をつづっておく。

石田民三『花火の街』


1937年(昭和12年)、J.O.スタジオ作品。

J.O.スタジオ(「ゼー・オー・スタジオ」と読む)は、キャメラなどの輸入・販売をしていた大沢商会の大沢善夫によって、1933年に京都太秦に設立された撮影所だ。スタジオの名前は(諸説あるが)、大沢善夫の先代の大沢善助のイニシャルZ.Oを、語呂が悪いということでJ.Oに変えたものということだが、「J」の文字には、J.O.が採用していたアメリカの録音システム Jenkins の頭文字も掛け合わされていたという。「J.O」を「ゼー・オー」と読むのにはそんなわけがあるらしい。

1937年、J.O.スタジオは、東京の P.C.L. および東京宝塚と合併し、東宝が設立される。つまり、J.O.スタジオは、東宝の前身のひとつということになる。この合併により、P.C.L. 砧撮影所は東宝東京撮影所、J.O.スタジオは東宝京都撮影所に改称された。この頃から、東宝は、大河内伝次郎長谷川一夫らの俳優や、伊丹万作山中貞雄らの監督を獲得してゆく。石田民三もそのひとりだった。『花火の街』は J.O.スタジオが東宝と提携した第一回目の作品であり、石田民三にとっても新興キネマから J.O.スタジオに移っての最初の作品である。

わたしが石田民三作品を見るのは、『花ちりぬ』(38)につづき、これで二本目だ。『花ちりぬ』ほどの傑作ではなかったが、『花火の街』も充分見応えのあるメロドラマの佳作だった。ただ、同時に、この監督には、ワンカットだけでひとを納得させるほどの力量はないなという印象も抱いた。いい題材をあたえられたときは、すぐれた仕事を残すが、そうでないときはいささか平凡な結果に終わる。その結果、作品の出来にばらつきがあるのではないだろうか。二本しか見ていないので、早急に判断を下すのは避けたいが、『花ちりぬ』や(見ていないが)『むかしの歌』が多くの人から傑作として賞賛され、近年注目が高まっている一方で、石田民三を作家として再評価する気運がそれほど盛り上がってこないのは、そういうところにあるのかもしれない。


『花火の街』の舞台となるのは、明治維新後の横浜の居留地。小林重四郎演じる零落した氏族が、恋人に捨てられて同じように惨めな暮らしをしていた氏族の娘(深水藤子)に恋をして、ふたりで生活を立て直し、子供も生まれたところに、娘のかつての恋人が留学先の海外から帰ってくる・・・


どうしようもないメロドラマだ。この題材を考えるなら、よく頑張った方だといえる。

居留地が舞台ということで、西部劇の saloon のような酒場が出てきたり、物語のクライマックスが、鹿鳴館を思わせる洋館での盛大なパーティにおかれていたりと、日本離れした雰囲気が漂う一方で、貧しい日本の暮らしが描かれもする。ただ、その描き分け方はそれほど鮮やかではない。たとえば室内描写で、洋間が広々とした印象を与えるのはいいとして、小林重四郎と深水藤子が暮らす平屋の畳の間が、妙にだだっ広く感じられるのはいかがなものか。なにもない和室は、貧しさを感じさせるというよりは、セットっぽさを感じさせてしまう。映画を見ながら、キャメラの位置はここでいいのかと思った瞬間が何度もあった。

原健作演じる深水藤子の元恋人にももう少し肉付けがほしかった。あれでは憎んでいいのか同情していいのかよくわからない。タイトルになっている割には、花火の場面が視覚的盛り上がりに欠けることも、少し拍子抜けだった。


長らく忘れられていた監督が、何かのきっかけで再発見され、必要以上に再評価されてしまうことがたまにある。『その場所に女ありき』の鈴木英夫などはその口だ。石田民三も、いままで見られなかったというだけで、過剰な評価をすることは避けたい。しかし、その前に、作品を見なければはじまらないのだが、石田の作品は滅多に上映されないので、これがなかなか難しいのだ。そもそも、allcinema online などには石田民三作品はほとんどデータ化されていない。まだまだ忘れられた存在であるようだ。「日本映画傑作全集」というむかし出ていたビデオシリーズに何本か石田作品がはいっているそうだが、見た記憶がない。『花ちりぬ』と並ぶ傑作とされる『むかしの歌』をまずは見てみたいと思う。