明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。





























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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

アンソニー・マン『シャロン砦』


日本版が出ることになった今頃になって、ずいぶん前に購入していながらそのままにしてあった北米版の『シャロン砦』DVD を取り出して、やっとナイロンパッケージを開封する。この DVD は、ふつうの日本製の DVDプレイヤーでは再生できないリージョン1のディスクなのだが、驚いたことに、この DVD にはなぜか日本語字幕がついていた。英語字幕以外でついているのは日本語字幕だけなので、明らかに日本人をターゲットにしていると考えていいだろう。これまでに北米版の DVD はずいぶん買ったが、日本語字幕がついていたのは初めてだ。英語字幕を目で追いながら映画を見るのは、正直いって疲れる。第一、画面にいまいち集中できないのが問題だ。日本語字幕はありがたい。これが一般化することを望む。

アンソニー・マンシャロン砦』The Last Frontier


ひさしぶりに見直してみたが、すごい傑作だった。もっとも、前に見たのはテレビの吹き替え・トリミング版だったので、シネスコのちゃんとした画面で見るのはこれが初めてだ。

前回の日記で引用したゴダールの文章は、この映画の冒頭の一場面のことをいっている。ヴィクター・マチュア、ジェームズ・ホイットモアらが枯れ草に覆われた空き地を歩いてくると、突然四方八方からインディアンが姿を現して、たちまち取り囲まれる様子を、アンソニー・マンは固定カメラによるワンカットでとらえてみせる。

ヴィクター・マチュアが演じるのは、狩りを生業としている、無教養で野蛮な男。インディアンたちが殺気立っているのは北軍の横暴のせいだと知ったかれらは、早速、北軍兵が駐留している砦へと向かう。そこの隊長が意外と話のわかる好青年だったこともあり、かれらは北軍のいわば傭兵のようなものとして、そこに滞在することになる。砦の空気が重苦しい雰囲気に包まれるのは、そこに「シャイロの屠殺者」という異名をもつ大佐率いる一隊が、別の砦から退却してきたときからだ。大佐はインディアンに復讐するという一念に取り憑かれており、周囲の反対を押し切ってインディアン掃討を決行しようとする。大佐とヴィクター・マチュアのあいだには、ロバート・アルドリッチの『攻撃』におけるエディー・アルバートジャック・パランス、あるいはマン自身の『最前線』におけるアルド・レイロバート・ライアンを彷彿とさせる緊張関係、無能な上官と切れ者の部下とのあいだに否応なく生まれる殺伐とした空気が生まれ、それは時に殺意に似たものとなる。ここでは、ヴィクター・マチュアが大佐の妻に横恋慕してしまうことによって、事態はさらによじれてゆく(脚本はフィリップ・ヨーダン)。

ドラマ自体、緊張が最後までとぎれることなく、目が離せないが、画面の緊張感もただごとではない。森の中にぽっかりと開けた空き地という、西部劇においてはそれ自体で不吉な空間を、偵察に出たジェームズ・ホイットモアがひとり馬に乗って進むのを、小高い丘からインディアンたちが見守っている。さらにその背後の高い木の上から、ヴィクター・マチュアがインディアンたちの動きをひそかに監視しているという、驚くほど深い焦点深度でとらえられた、俯瞰によるパノラミック撮影には、ひさびさに心底興奮した。これはマンがシネマスコープを使ったわずか2作目だというが、この横長の画面をすでに自家薬籠中のものにしているように思える。

ジェームズ・スチュアートに象徴される、知的で紳士的なヒーローを描いたアンソニー・マンの西部劇を見慣れたものには、ヴィクター・マチュアの肉体と演技は、マンの世界とずいぶん異質なものに感じられるのはたしかだ。『怒りの河』や『ウィンチェスター銃73'』のジェームズ・スチュアートがときおりかいま見せていた狂気やフェティシズムとはまたちがった、野生への誘惑といったものがここにはあり、それがこの作品をマンの数ある西部劇のなかでも傑出したものとしているといっていい。同時に、マンは野蛮人ヴィクター・マチュアのうちに文明人以上の繊細さを見て取り、文明人ひとりひとりのなかに潜む野獣をそれに対比させてもいる。野生と文明といった、単純な構図には収拾されない曖昧さは、この作品をまさにモダンな西部劇たらしめている。インディアンが身につけていた軍服を奪って着るという違法行為を犯して嬉々としていたヴィクター・マチュアが、最後に本物の軍服を着るところで終わるこの映画は、一見、野生が文明へと回収されるところで終わっているともいえるが、それはまた、野蛮な文明がすべてを覆ってしまうはじまりだったのかもしれない。


必見の傑作だ。