あまり書くことがないので、最近見たマイナーな作品を2本ばかり紹介しておく。
ロッド・ルーリー『ザ・コンテンダー』
どう考えても、オットー・プレミンジャーの『野望の系列』と同じ話なんだけど、allcinema online などにはリメイクとは明記されていない。権利を取らずにリメイクしたいわゆる「いただき」というやつか。
『野望の系列』は、次期国務長官の候補をめぐって、政界の駆け引きがサスペンスフルに描かれた傑作だった。かつてコミュニスムと関わっていた疑惑をもたれているヘンリー・フォンダを、国務長官として承認するかどうかをめぐり、賛成派と反対派が票集めに奔走し、ときには卑劣な手段を用いて政敵をおとしめようとする。反対派の重鎮を演じるチャールズ・ロートンが圧倒的な存在感で画面を引き締めていた。プレミンジャー作品おなじみの女優であるジーン・ティアニーは、ここではごく控えめな登場をするだけだ。この時代は、政治はあくまで男だけの世界だったということか。
『ザ・コンテンダー』は、細かい設定を変えてあるだけで、大筋は『野望の系列』をほぼなぞっている。いちばん大きな違いは、ヘンリー・フォンダが演じていた役を女性が演じているということだ。そこでは、国務長官ではなく、次期副大統領のポストが問題となる。『野望の系列』では、フォンダの国務長官としての資格を問う公聴会で、フォンダがコミュニストの集会に出たことが問題となり、雲行きがあやしくなってきたのを見た賛成派が、公聴会の議長をセックス・スキャンダルを使って脅迫する(それがまた同性愛だというのが、いかにもプレミンジャーらしい)のだが、『ザ・コンテンダー』では、副大統領候補のヒロイン自身のセックス・スキャンダルが焦点となる。
中心人物を女性に変えた設定はそれほど掘り下げられているようには思えないが、リメイクとしてはなかなかよくできていたと思う。ただ、結末が少し安易だったのと、なによりも、ゲイリー・オールドマンとチャールズ・ロートンではやはり格の違いを感じてしまう。『ザ・コンテンダー』のオールドマンは、かつて大統領にこけにされた私憤から大統領に反対するのだが、自分は国家のために動いているのだと思いこんでいる。ロートンも同じような偽善的人物を演じていたが、ロートンが演じると、どこか憎めないと同時に、底が知れない貫禄が感じられたものだ。
ジョゼフ・ロージーの手ほどきを受けたというスタンリー・ベイカーが自らプロデュースし、主演した戦争映画。
19世紀末、イギリスの統治下にあった南アフリカで、4000人のズール族をわずか105人の英国守備軍が迎え撃った「ロークスドリフトの戦い」を描いた佳作。2時間を超える長尺だが、後半の1時間はすべて戦争の描写に当てられている。現地人の戦闘能力を最初は侮っていた英国軍の司令官、自殺にも似た特攻をくり返す一方で、巧みな戦術を見せて英国軍を圧倒するズール族。英国人のあいだでは「南アのアラモ」と呼ばれ、いまだに記憶されているこの実際にあった戦いを、サイ・エンドフィールドはまさに西部劇のように描いている。スタンリー・ベイカーとマイケル・ケインが対照的な二人の上官を見事に演じているが、人間描写にいまひとつ説得力がなく、全体的にドラマティックな盛り上がりに欠け、ラオール・ウォルシュの『壮烈第七騎兵隊』やジョン・フォードの『アパッチ砦』の悲劇的崇高さのオーラはこの作品にはまったくといっていいほど感じられない。しかし、ドラマを作り込むよりも、戦いを淡々とリアルに描いた姿勢は評価できる。
あまり知名度は高くないが、この作品が大好きだという人が多いことも納得できた。見て損はない作品である。
監督のサイ・エンフィールドは、ロージーと同じく、赤狩り時代にブラックリストに載せられて、イギリスへの亡命を余儀なくされた経歴を持つ。この作品は、亡命先のイギリスで撮られた。