明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『J’sミステリーズKING & QUEEN 海外作家篇』


相川司、青山栄 (編集) 『J’sミステリーズKING & QUEEN 海外作家篇』


ミステリー作家辞典風に書かれた海外ミステリーのブックガイド。ミステリー読本としてはなかなかのできだ。

中身は、「本格」「サスペンス」「ハードボイルド」といったぐあいにジャンルごとに整然と章分けされ、それぞれのジャンルを代表する作家たちが、優劣をつけることなく、それぞれ見開き2ページで簡潔に紹介されている。さらに、各作家ごとに、「ミステリ羅針盤」と称して、「デビュー作品」「ロングセラー作品」「隠れた名作」などといった項目に分けた簡単な表がつけられ、代表作が一目でわかるようになっているのがいい。わたしには、特にこの「隠れた名作」という項目が興味を引く。ミステリー好きでも見逃しがちな作品が取り上げられていて、マニア心をくすぐるのだ。もっとも、パトリシア・ハイスミスの「隠れた名作」は、間違いなく吉田健一訳による『変身の恐怖』だと思うのだが、一言も言及されていない、などといった不満はいろいろある。それでも、わたしのようなミステリーの素人には、執筆者たちのこの分野での知識はかなりのものだと思われるし、その大げさな書きっぷりも、とりあえず読んでみたいと思わせるだけの勢いがある。なにより、世間の評判にはほとんどかまわずに、自分たちがおもしろいと思う本を迷わず取り上げるという姿勢がいい。

ただし、ミステリー以外の知識は、あまり信用しない方がいいだろう。編者ふたりがミステリー映画について対談しているなかで、前にこのブログで紹介した『ピーター・セラーズのマ☆ウ☆ス』リチャード・レスター作品と誤って紹介し、「リチャード・レスターってやっぱりすごいね」と勝手に盛り上がっている始末。ほかにも、「ドストエフスキーの『幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である』という名言」などといった迷言もみられる。これは言うまでもなく、トルストイの『アンナ・カレーニナ』の超有名な冒頭の一節。余計な知識を披露しようとするからこういう恥をかく。


こういうお粗末なところはほかにもいろいろあるようだが、ミステリーのブックガイドとしてはなかなかのものなので、ミステリー・ファンならもっておいて損はないだろう。