ディーン・クーンツ『雷鳴の館』(扶桑社ミステリー文庫)
スーザンはリモコンでテレビをつけた。次々とチャンネルを流していき、はじまったばかりの古い映画を見つけた。スペンサー・トレーシーとキャサリン・ヘップバーン主演の〈アダムの肋骨〉だ。以前にも見たことがあったが、これは何度でも飽きずに見ることができるしゃれた、粋な映画だった。
「Adam's Rib」 は、〈アダムの肋骨〉ではなく、『アダム氏とマダム』です。何度もいうように、映画のタイトルぐらいすぐに確認できるんだから、ちゃんと調べましょう。それにこの〈 〉はなんでしょうか。未公開の意味でしょうか。ちゃんと日本で公開されています。映画史上最強のコンビの一つ、トレイシーとヘップバーンが、破局寸前の夫婦として法廷でやりあう、抱腹絶倒のスクリューボール・コメディの傑作です。
ちなみに、「rib」には「妻、女」の意味があります(これは、イブはアダムの肋骨から作られたという聖書の「創世記」に由来していると思われます)。したがって、「Adam's Rib」は「アダムの妻」という意味にもなります(アダムは、この映画でスペンサー・トレイシーが演じている役名)。
『雷鳴の館』は、クーンツとしてはあまり知られていない作品かもしれません。あの超傑作『戦慄のシャドウファイア』のような狂おしいスピード感には欠けますが、解説の風間賢二も書いておられるように、ドン・シーゲルの『ボディスナッチャー/恐怖の街』を思わせる、どこか陰謀めいた雰囲気がたまらないサスペンス・ホラーです。
クーンツなんて読んだことないという人は、だまされたとおもって、まず『戦慄のシャドウファイア』を読んでみてください。それで面白くなかったら、そうですね……、まあ、残念だとしかいいようがないですね。ほんとに残念です。これが面白くないとなると、いったいなにを読んだら面白いのか……。