明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

バーベット・シュレイダー『完全犯罪クラブ』

自転車で行ける範囲にある唯一の映画館が9月いっぱいで閉館することになった。とくに何の思い入れもない映画館だったが、つぶれるとなると痛い。どこでもやっているような封切り映画を見に行くのには便利な映画館だった。しかし、いついってもがらがらだったことを思うと、仕方がないのかという気もする。こんな田舎にまだ映画館が残っていたというだけでも奇跡だったのかもしれない。

いまは改装されてシネコンになっているが、ここはわたしが子供の頃からずっと映画館だった。はじめてひとりで映画を見に行ったのも、改装される前のこの映画館だった。小学何年生の頃だったか。タイトルも覚えているが、恥ずかしいので隠しておく。



☆ ☆ ☆



バーベット・シュレイダー『完全犯罪クラブ

テレビにて。エリック・ロメールの映画を製作したり、ジャック・リヴェットの『セリーヌとジュリーは船でゆく』、ピエール・ズッカ=ピエール・クロソフスキー『ロベルトは今夜』などに俳優として出演するなど、そうそうたる経歴を持つフランスの監督バーベット・シュレイダーがアメリカに渡って撮った作品。ハリウッドでも、『マーズ・アタック!』に出演したり、ラウール・ルイス『悪夢の破片』を製作するなど、いろいろと活躍しているが、肝心の監督業のほうはどうなのだろう。アメリカではじめて撮った『バーフライ』などは悪くなかったが、あっという間にハリウッドになじんでしまった気がして、その後積極的な関心をなくしてしまった。少し前に、これもテレビで、『死の接吻』を見たが、ニコラス・ケイジの健闘むなしく全然だめだった。アイラ・レヴィンの映画化ではなく、リチャード・ウィドマーク主演のヘンリー・ハサウェイ作品をバーベット・シュレイダーがリメイクした作品だ(同じタイトルなのでややこしい)。

その約5年後に撮られたこの『完全犯罪クラブ』は、1924年アメリカで実際に起きた、インテリ青年2人組が自分たちが優秀であることを示すためだけに起こしたとされる誘拐・殺人事件「レオポルド&ローブ事件」を題材にしている。同じ事件はヒッチコックの『ロープ』やリチャード・フライシャー『脅迫/ロープ殺人事件』(『動機なき殺人』のほうがなじみ深い)によっても映画化された。もっとも、『ロープ』のほうは、直接的には、パトリック・ハミルトンの原作戯曲「Rope's end」がもとになっており、一見すると非常に演劇的な作品なので、『脅迫/ロープ殺人事件』『完全犯罪クラブ』とはだいぶ印象が異なる作品になっている。『ロープ』では、若者による傲慢で、思い上がった犯罪が描かれていると同時に、彼らに犯行のきっかけを与えてしまった人物(ジェームズ・スチュアート)との師弟関係における「罪の交換」(by ロメール&シャブロル)が、ヒッチコック的な重要なテーマをなし、モラルをめぐる心理的サスペンスにさらなる深みを与えていた。『ロープ』には実録ものの印象はほとんどなく、完全にヒッチコックの作品になっているといっていい。
実際、『完全犯罪クラブ』を見ていて、すぐにこれはフライシャー作品のリメイクだと思ったが、『ロープ』のことは思い浮かばなかった。

『死の接吻』のすぐあとに見たせいもあるのだろうか、シュレイダーはこの作品ではなかなか健闘しているように思えた。しかし、世間での評判はかなり悪いようだ。シュレイダーは当然、ヒッチコックやフライシャーの作品を意識しながら撮っているにちがいない。そういう興味で、比較しながら見ると面白いのだが、なにも知らない人には、ただの安っぽいテレビドラマのような作品にしか見えないのもたしかだろう。

allcinema online の書き込みではほとんどぼろくそに書かれている。しかし、いつものように的外れで、自己チューなコメントが目立つ。別にこの映画が傑作だとはいわないけれど、こう的外れのコメントが多いとつい擁護したくなる。




以下、allcinema online のコメントの添削。戯れにやってるので、あんまり内容はないです(まさかとは思いますが、コメントを書いた本人の人がいたらごめんなさい)。


私もサンドラ・ブロックが好きだから見ました。でも対してすごい面白いというわけでもなくとにかく普通ですね。それに完全犯罪クラブと呼ぶほどの完全犯罪かな?なんて思ってしまいました。

「でも対してすごい面白い」→「でも大してすごく面白い」の間違い

そもそも、「大してすごく面白い」が日本語としておかしくないか? 「大してすごくない」ならいうけど。それに「完全犯罪クラブは配給会社が勝手につけた邦題で、原題は「Murder by Numbers」です。邦題ベースに判断するのもいかがなものかと。というのも、書き込みの多くは、この「完全犯罪」というタイトルに異議ありという内容になってるんですね。まずい邦題でだいぶ損をしているというのはたしかにあるけど、もう少し的を射たコメントができないものかねぇ。

タイトルが張り切り過ぎてて、なんかマヌケです。
犯人たちは捜査方法の本を読んで警察の捜査を先回りして証拠を残したわりには、「本当にだらしないなら靴は事前に盗まない」「自殺するなんておかしい。このタイプの殺人者は逮捕されたがるもの」とか・・イマイチ出し抜けてない。真っ昼間にあんな格好で被害者の庭を歩くのも大胆すぎるし。

だからぁ、タイトルは勝手につけたものだって! 別に見事な完全犯罪を描こうとした映画じゃないんだってば。実際の、犯人だってあっけなく捕まっちゃったんでしょ。要するに、intelligent だったけど clever じゃなかった未熟な少年たちの話なんですよ。

サンドラ・ブロックは好きです。
だから見ました。それだけでした。

こういうコメントは、だれのために、なんのために書かれているのか。たんなる自己満足でしょ。好きです、嫌いですだけで書いていいのは、ロラン・バルトだけ。

髪の毛なんかには細心の注意を払いながら
嘔吐はそのまま置いて帰るなんて信じられない!
どこが完全犯罪???

楽しめたけど、
完全犯罪クラブとかいってるわりに、
簡単に捕まりすぎだと思う。

だからぁ! 正直、いらいらしてくるね。

S.ブロックの女刑事はまぁまぁ良かったけど
「羊たちの..」のジョディ.フォスターのかっこよさには
とうてい及びませんな〜。

比較する意味がよくわからない。

脚本家?監督?のセンスを疑うね。その一味で全く違った物になったも
のを自らドブに捨てたようだ。確かに子供らしさは描かれていたが、もう
がっかり。非日常性を描きたいのか、超日常性を描きたいのか、訳分からん。第一、タイトルと内容に偽りがある。この映画って、現実路線の道徳
もの?でしょ。悪い意味で中途半端ですな。

そういえば、英名タイトル何だったけ?。

あんたのコメントのほうがわかんないね。「その一味」→「その」がなにを受けているのか不明。「一味」は「いちみ」、それとも「ひとあじ」? 「現実路線の道徳もの」ってなによ?



なんか、みんな見る前から作品のイメージを思い描いちゃってるんだよね。そこから外れていたら悪い作品みたいな、そういう基準でしか見ていないというか。

まあ、なに書いてもいいけど、短い数行なんだから、せめて誤字脱字のチェックぐらいしてほしい。「以外」と「意外」の使い間違いをいままで何度見させられたことか。実をいうと、こういう書き込みを読んでいると気分が悪くなってくるのでなるべく読まないようにしてるんだけど、つい読んじゃうんだよね。いつもは頭の中でつっこみをいれているだけなんだけど、今日は酔狂で添削してしまった。