明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

国際化するのも難しい


『ペパーミント・キャンディ』イ・チャンドン監督の新作 Secret Sunshine がフランスで公開される模様。

イ・チャンドンが映画を撮るのは、2000年の『ペパーミント・キャンディ』から数えて、これが2本目である。7年で2本というのはかなりの寡作といっていいだろう。今度も、女性の苦悩を描く重苦しい作品になっているようだ。韓流ブームなどどこ吹く風といったところだろうか。

それにしても、海外の記事を読んでいていちばん困るのは、アジア系の名前の読み方だ。最初見たとき、"Lee Chang-dong" が『ペパーミント・キャンディ』の監督だとは、すぐわからなかった。アジア人の場合、発音も、日本で親しんでいるのとはまったくちがうことが多い。「アウン・サン・スー・チー」が、フランス語では「アン・サン・スー・キー」に近い音で発音される。知らないと、一回で聞き取るのは難しいだろう(毛沢東って英語でどういうか知ってますか?)。もっとも、発音が変わるのはヨーロッパ人の場合も同じである。ヴァン・ゴッホが「ヴァン・ゴーグ」とか、モーツァルトが「モザール」とか、日本とはまったくちがう発音になるから、ヨーロッパ人の名前も注意が必要だ。しかし、それでも綴りは、"van Gogh", "Mozart" というように、英語の表記とほぼ同じであることがほとんどであり、発音がわからなくても見ればだいたいわかる。

やっぱり、問題はアジア、とくに韓国の映画監督の名前だ。欧米中心主義といわれても仕方がないが、欧米系の名前のほうが圧倒的に見慣れているので、字面を見ればある程度勘で読み方はわかるものだ。たとえ知らなかったとしても、"Kiarostami" を「キアロスタミ」と読み、"Skolimovsky" を「スコリモフスキー」と読むぐらいは何とかなる。しかし、"Park Chan-Wook" と「パク・チャヌク」が同一人物だと頭にわからせるのは、そう簡単ではない。まあ、これ一つを覚えるだけならたいしたことないのだろうが、「パク」だの「ペ」だのといった似たような名前が山ほどあると、すぐにどれがどれだかわからなくなる。

しかも、中国や台湾の映画などの場合、欧米の映画と比べて、日本での公開タイトルと国際マーケット向けの英語タイトルが全然別物になっている確率が断然高いのだ。CHUNHYANGが『春香伝』、HAPPY TOGETHERが『ブエノスアイレス』の英語タイトルであることが一目でわかるひとは、かなりの映画通だといっていい(英語タイトルも、複数ある場合があるので、事態はさらに複雑だ)。


まあ、こんなことは、海外の映画記事を読まないひとにはあまり関係のないことだろう。しかし、ごくたまに外人と映画について話す、というか、話さざるを得なくなることがあるものとしては、有名な映画の英語タイトルぐらいはすらすら出てくるようにしておかなくてはまずいし、場合によっては、フランス語タイトルのほうも覚えておかないといけない。『雨月物語』や『近松物語』なら、"Ugetsu" や "Chikamatsu" で通じる可能性は大いにあるが、『西鶴一代女』が "Saikaku" で通じるのは、相手がよほどの映画通の場合だけだろう(そもそも、近松西鶴も映画のなかに登場しねぇだろうが)。自分の国の映画作家の作品もちゃんと英語でいえないようでは話にならない。そんなことを考えて、日本映画・アジア映画の監督のフランス語で書かれた略歴や、作品名の英語タイトル・フランス語タイトル・日本語タイトルの一覧表などをむかし作ったことがあるのだが、いまだに全然覚えられていないから、困ったものだ。話をわかりやすくするために、邦題をつけるときはできるだけ英語タイトルと同じものにしてほしいものだと思ったりもする。その点、『ペパーミント・キャンディ』は、英語タイトルがそのまま邦題になっているのでありがたい。こうであってほしいねぇ。