芸人でもないのに M1 の前日は眠れなかった。サンドイッチマンの一発目のネタは前に見たことがあったが、こんなに面白かったっけ、というぐらい神がかり的だったね。
Podcast で配信されている若い映像作家との対談で、中沢新一が、「〈知っている〉というのは、過去のことに過ぎないんです。実に、くだらない。大事なのは、いま目の前でおきていることに全感覚を開くことなのに」、といった意味のことを語っていたのを思い出す。
最近、「インテリ芸人」というくくりで芸人が知識を疲労する番組が結構ふえてるんだよね。くだらない。もっと芸をみがけって話だよ。
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ホウ・シャオシェンの『百年恋歌』をやっと見る。
大阪でやってたとき見逃した、というか、京都でやるのを待っていたら、TSUTAYA で先にレンタルされてしまった。もう少し公開が遅れたら、DVD で見てしまうところだったぜ。モーニングだけの上映が数日と、レイトショーがたった一日だけの短期上映。京都の映画人口はこの程度か。ポテンシャルはもっと高いと思うんだけどなぁ。
それにしてもよかったね、『百年恋歌』。ヴェネチアみたいに船が行き交う第一話も、いつもは寡黙な侯孝賢がサイレントだとなぜか饒舌になるのが面白い第二話も、それぞれよかったが、いちばんしびれたのはやっぱり第三話かな。辛亥革命を告げる字幕で第二話が唐突に終わった直後に、爆走するバイクの映像に切り替わる瞬間の心地よい衝撃。
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ラミレスだけでも驚いたのに、クルーンまでとっていたのか。やりすぎだね。ま、どうでもいいけど。
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理由はよくわからないが(まあ、すべてについて、理由なんかあるのかって漫画だけど)、目下、わたしがよくいく大阪が舞台になっているので、余計に面白い。しかし、これどうして終わらせるつもりなのかねぇ。この合間に書いてた『め~てるの気持ち』の結末は、いまいち説得力がなかったので、若干心配になる。
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ジュールス・ダッシン『街の野獣』
ずいぶんひさしぶりに見直した。傑作。
ダッシンがどうのこうのというより、総合力ですね。ロンドンの夜景も素晴らしいが(ダッシンは赤狩りを逃れて、この作品をロンドンで撮影)、なんといってもリチャード・ウィドマークだ。今度こそ大丈夫といっては、同じ失敗を繰り返し、だれからも相手にされないウィドマークは、愛人(ジーン・ティアニー! 豪華すぎる)の金をくすね、町の大立て者の妻をだまして金を出させ、なんとかプロレス興業を立ち上げるが、結局うまくいかず、とうとう追い詰められて町中を逃げ回ったあげく、殺されて川底に沈んでゆく。しかし、ただでは死なず、周りにいるものすべてを地獄へ道連れにしていくところがすごい。こういう情けないひも役をやらせたら、ウィドマークの右に出るものはない。頭もいいし、才能もあるのに、どこにも行き着かない人生の失敗者。だれかが言ってたけど、芸はあるのに作品にならない。不幸な男だ。
プロレスの場面には、ひさしぶりに本気で手に汗握った。
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ジャック・アーノルド『半魚人の逆襲』
『大アマゾンの半魚人』の続編。半魚人が捕まって海洋博物館の見世物にされる。『ロスト・ワールド』→『ジュラシック・パーク』のパターン。同じアーノルド作品だが、一作目には遠く及ばない。最後は、ヒロインをお姫様だっこして海に帰っていこうとするところを狙撃されて海に沈む。前から思っていたが、半魚人には生殖能力があるのだろうか。見たところこの世に一匹しかいないようだし。
『エイリアン』→『エイリアン2』のパターンもあったかも。
日本未公開の三作目 THE CREATURE WALKS AMONG US では、半魚人が突然変異で人間に近づく。アイデアはそれなりに面白いが、出来は最低だった。半魚人が服を着て歩く姿は結構笑えるので、話の種に見ておくのもわるくない。
なにはともあれ、半魚人はモンスター史上1,2を争う怪物。一作目で、水中の檻に入れられた半魚人が眼だけをぎょろっと輝かせている場面を見たときは、ひょっとしたらこんな生物が実在するのではないかと一瞬信じた。小さな丸い船窓から足の鱗が見えるところもよかった。
『半魚人の逆襲』には、『タランチュラ』と同じく、イーストウッドが白衣を着た助手の役で一瞬登場(瞬きしてると見逃す)。関係ないが、最近『カスパー・ハウザーの謎』をたまたま見直していたら、見世物小屋の場面にキッドラック・タヒミックが出ていたので驚いた。もっとも、映画のほうは、大昔に見たとき同様、全然面白くなかったが。冒頭の草原のイメージと、ラスト手前の、木立を逆光でとらえたワン・ショットだけがわるくなかった。
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ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク『ヒトラー』
今週の目玉はこれです。ジーバーベルクの伝説の作品がついに DVD で登場。このブログをときどき見に来るような人には、説明する必要はないでしょう。ニュー・ジャーマン・シネマ史上、というか映画史上もっとも有名で、もっとも見られることの少ない作品の一本です。長いし(442分)、高いけれど、これは買うしかないでしょう。四方田犬彦の『映像の招喚―エッセ・シネマトグラフィック 』に詳しい分析がある。