Delmore Schwartz, In Dreams Begin Responsibilities and Other Stories
とりあえず、表題作の "In Dreams Begin Responsibilities" を読む。
自分の父と母が結婚する前(つまりは自分が生まれる前)のある日の光景を、語り手が、夢でも見るように映画館で見ているという摩訶不思議な短編小説。1909年のある日の光景を映しだすそのフィルムは、バイオグラフ社のサイレント映画のようだと、語り手によって形容されている。「珠玉の」という言葉はこの小説のためにあるのかもしれない、と思わせる、実にユニークな作品だ。
この小説もローゼンバウムの本で知った。デルモア・シュワルツは日本ではほとんど無名の作家といっていいだろう。翻訳も数えるほどしか出ていない。このユダヤ人作家は、ほとんどこの短編集一つで、というかこの表題作一つで名をなし、そしてはかなく消えていった。翻訳は出ていないと思っていたが、村上春樹、柴田元幸ら五人の訳者が自分の好きな短篇を持ち寄ってつくった『and Other Stories とっておきのアメリカ小説12篇』というアンソロジーに入っているらしい(とっくの昔に紹介されていたのかと思うと、なんだか残念だが)。訳しているのは、映画批評も書いている(最近は書いていないのかもしれないが)畑中佳樹。畑中の解説の言葉を引用しておく(ネットで調べて転載)。
「たった一発の狙いすました弾丸でたった一つの的を射抜き、あとは一切余計なことをせずに死んでいった作家――デルモア・シュウォーツを、ぼくはそんな風に感じている。その一発の弾丸とは、一つの短編小説である。そのタイトルが、まるで伝説のように、アメリカ小説愛好家の間でひそかに囁かれつづけてきた。ぼくは、それを 「夢で責任が始まる」と訳した。余計な解説はいっさい付けたくない。とにかく読んで下さい。是が非でも人に読ませたくなる小説なのだ。一九三七年、デルモア・シュウォーツ二十四歳の時に発表された短編である。」
去年出た坪内祐三の『変死するアメリカ作家たち』にはデルモア・シュワルツのことも書かれているようだが、まだ読んでいない。
(年が変わっても、あいかわらずキーワード・リンクしないようなマイナーな事柄ばかりを取り上げてゆく予定です)。