明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。






























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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

もっとも危険なゲーム〜コーネル・ワイルド『裸のジャングル』

Amazon.com に注文していた商品が到着予定日を1週間ほど過ぎても届かないので、そろそろメールで確認しておいたほうがいいかと真剣に考えはじめたころになってやっと届く。ほっとしたが、梱包の仕方がちょっと気になる。いつもは段ボールのなかの商品がナイロンのパックで包装されていたと思うのだが、今回はむき出しのままはいっていた。なかの商品が動いたせいか、ペーパーバックの表紙の端が少し折れているものがあった。最近は、アルバイトに梱包を任せているのだろうか。もう少し注意してもらいたい。・・・などということをここで書いてもしようがないので、Amazon.com にメールで一度注意しておくか。


今回は、ロバート・ワイズOdds Against Tomorrow, イエジー・スコリモフスキーMoonlighting, D.W. Griffith Year of Discovery と洋書を何冊か注文。Odds Against Tomorrow, Moonlighting は8ドル程度なので、超お買い得。ちなみに、いま Amazon.com では Film Noir の DVD 40%・オフ実施中です。


☆ ☆ ☆


デイヴィッド・フィンチャーの『ゾディアック』をまだ見ていなかったので、今頃になって DVD で見る。フィンチャーとしては、ある意味、いちばん正統的な作品といえるかもしれない。これまでの作品みたいにトリッキーな部分はほとんど見られないが、細部に対するオブセッションはいつにもまして強い。謎の殺人鬼の正体を調査していくにつれてある映画の存在が浮かび上がってくる。それがアーネスト・シェードザックとアーヴィング・ピシェルの共同監督作品『猟奇島』だという話は、すでにあちこちで話題になっているようなので、ここではしない(ドラキュラやフランケンシュタインや透明人間など、30年代に量産された怪奇趣味の映画のなかにおいて、『猟奇島』がもっともオリジナルな作品の一つであることは、『ゾディアック』を待つまでもなく、映画ファンのあいだではよく知られていた。必見の傑作とだけいっておく)。

『猟奇島』はその後何度かリメイクされ(ロバート・ワイズ『恐怖の島』(45)、ロイ・ボールディング『太陽に向かって走れ』(56))、似たような主題の映画を数多く生み出してきた。ジョン・ブアマンの『脱出』などもそのなかに数えていいだろう。しかし、ここで取り上げたいのは、『猟奇島』の系譜に連なる作品でありながら、一部のファンをのぞいてあまり知られることのなかったコーネル・ワイルド『裸のジャングル』という映画のことだ。

コーネル・ワイルドは最初俳優として活躍し、のちに監督業に転身した。俳優としては、剣劇やロマンスなど幅広い作品に数多く出演しているが、どちらかというと地味な役が多く、ジョゼフ・H・ルイスの『暴力団』など一部の作品をのぞいて、どれもあまり印象に残っていない。監督としても、それほど成功したとはいえなかったが、『裸のジャングル』の妥協のない映画作りとサディスムは批評家にも強烈な印象を与え、その後も、戦場の恐怖をかつてないリアリズムで描いた『ビーチレッド戦記』(67) や、最初のエコロジー映画とも評される『最後の脱出』(70) など、野心的な作品を撮りつづけた。近年、その評価はますます高まりつつある。

『裸のジャングル』は、アフリカでサファリの案内役の仕事をしているハンター(コーネル・ワイルド)が、現地の野蛮な部族に命をねらわれて必死で逃げ回る姿をひたすら描いただけの映画だ。強欲な象牙商人がガイドのいうことを聞かずに勝手な行動をして原住民を怒らせてしまうという、「ターザン」以来おなじみの展開で映画ははじまる。上映開始後、ものの20分もしないうちに、主人公以外の白人と、かれらのお供をしていた黒人たちは、捕らえられて殺されてしまう。主人公だけは殺されずに解放されるのだが、それは生かすためではなく、彼に敬意を表して少しのあいだだけ猶予を与えただけに過ぎない。結局は殺されるのだ。しかし、ハンターは最初に襲いかかってきた敵を殺して剣を奪い、次の相手も倒して今度は弓矢を手にいれる。生き残りをかけた長いながい狩りがはじまった。ただし狩られるのは自分だ・・・


ストーリーはほとんどないに等しい。主人公以外は全部現地人なので、主人公がときおりつぶやく独り言を除けば、セリフの大部分が解読不能の現地語で語られるというのも、この映画の野心的な点の一つだ(なので、英語が苦手な人でも問題なく見られます)。

追ってくるのが未開の部族たちという設定は、この映画をずいぶんわかりやすくしているといえる。『猟奇島』も、狩人が逆に狩られるという構図自体は『裸のジャングル』と変わらない。しかし、追う側も追われる側も同じ文明人であることが、人間の不条理さを際だたせ、作品に哲学的な深みを与えていた。しかし、野蛮人なら人間狩りをしても別に不思議ではない。『裸のジャングル』には『猟奇島』のように考えさせる側面は少ないが、その分、アクションに純化した作品になっている。

主人公のまるでローマの軍人のような剣さばきや弓矢の扱いは、見ていて違和感があったが、そういう訓練を受けたことがあるのだろうと考えてひとりで納得した。この映画では、人物の背景はまったくといっていいほど説明されず、たしか名前さえも最後まで出てこないはずである。あとは想像するしかない、そういう作り方になっている。




日本ではまだソフト化されたことはないと思うので、いまとなっては見ている人は少ないだろう。海外では以前から DVD になっているが、今年になって Criterion から決定版とでもいうべき版が出た。『猟奇島』ほどの傑作ではないが、映画ファンなら押さえておきたい一本だ。



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余談。


捕まえた獲物をすぐには殺さずに、生かすつもりもないのにいったん逃がしてやるというのは、基本的に品性下劣な人間が支配権を握ったときにやることだ。映画のなかで何度こういう光景を見てきただろうか。ナチ占領下でのフランスのレジスタンスを描いたジャン=ピエール・メルヴィルの『影の軍隊』で、ナチの捕虜となったレジスタンスのメンバー、リノ・ヴァンチュラが銃殺されそうになる場面では、ナチは捕虜をすぐに殺さず、走って逃げ切れば自由だといって、徒な希望を与えてから銃殺してゆく。リノ・ヴァンチュラは最初、走るのを拒否するのだが、結局、ほかの捕虜たちにつづいて走りはじめる。どうせ殺されるのはわかっていても、こういうときは走ってしまうのだ(もうだめだと思われた瞬間に、天井からするするすると縄が降りてきて、ヴァンチュラが危うく命を救われる瞬間は、この映画でもっとも印象的な場面の一つである)。


ピーター・ワトキンスPunishment Park では、反体制活動を理由に軍によって拘束された十数名の若者たちが、「パニッシュメント・パーク」と呼ばれる荒野での懲罰を受ける。かれらは何マイルも先にあるアメリカの国旗に向かって、なにもない荒野を水も食べ物ももたずに延々歩きつづける。捕まえられずに国旗までたどり着けば解放されるという言葉を信じて、かれらは歩きつづけるが、あるものは途中で精根尽き果て、あるものは拘束され、あるものは反抗して射殺される。ワトキンスお得意の疑似ドキュメンタリーで、軍人たちも演技しているだけなのだが、演じているうちにむき出しになってくるサディスムさえもがキャメラにとらえられ、異様な緊張感がみなぎる。嘘だとわかっていても見ているうちについ熱くなってしまう傑作だ。