MacBook を修理に出した翌日、むこうに届いたとの Apple の修理センターからのメールがはいる。その翌日、修理が終わったので発送したというメールがはいり、次の日にはもう、宅配で MacBook は我が家に返ってきていた。なかなかの素早さだ。
起動中にがーっという異音がして、電源が断続的に落ちるという症状で、サポート・センターと電話で話したところでは、どうやらハードディスクの交換になりそうだということだったのに、結局、ファンの交換をしただけだった。数日使ってみたが、いまのところ問題はないようだ。しかし、ファンの交換だけで4万強とは高すぎる。どれだけパーツを換えてもパッケージとしてその値段になるというのは最初からわかっていたのだが、ハードディスクの交換と、そのほかいくつか修理してもらってその値段ならまあいいかと考えて納得していただけだ。こういう結果になるんだったら、交換したパーツごとに金額を加算していくかたちにしてもらった方が安くついたろう。なんか腹が立つが、まあしかたがない。
W・C・フィールズが、わたしの今年最大の発見である。
こんなにも有名なコメディアンのことをいまさら発見だなどというのもおかしな話だが、知らなかったのだからしかたがない。日本でW・C・フィールズは、ローレル&ハーディほどにも有名でないのだ。ローレル&ハーディについてはあちこちでいろいろ書いてきたつもりだが、状況はほとんど変わっていない。フィルムで見る機会はほとんどないし、DVD でさえ、いちばんつまらない部類といってもいい『天国二人道中』がわずかにでているくらいである。
ローレル&ハーディが好きな人は少なからずいるが、だまっている。話しても通じないからだ、と森卓也は書いているが、 W・C・フィールズとなると少なからぬファンがいるのかどうかも疑問だ。グリフィスの『曲馬団のサリー』、ルビッチらが監督した『百萬圓貰ったら』、キューカーの『孤児ダビド物語』(フィールズはディケンズの愛読者だった)などで散発的に目にすることはあっても、まとめて目にする機会はほとんどないといっていいだろう。
実はわたしも、Criterion Collection にはいっているこの DVD W. C. Fields: SIX SHORT FILMS を見るまでは、W・C・フィールズがどういうコメディアンなのか、まるでわかっていなかった。それだけに、このなかに収められている6つの短編は新鮮な発見だった。ローレル&ハーディの場合は、ゴダールの『気狂いピエロ』のなかでカリーナ=ベルモンドがたしかガソリンスタンドで見せるローレル&ハーディ式ギャグや、トリュフォーの『家庭』で、ジャン=ピエール・レオがベッドのなかでふざけてクロード・ジャドの左右の乳房をローレル&ハーディにたとえる場面などが導きの糸となったが、わたしをW・C・フィールズに導いてくれるものがいままでなかったのが残念だ。
フィールズはサイレント時代から映画に出ているが、頭角を現すのはトーキーになってからだといわれている。The Pool Sharks をのぞくと、Criterion の DVD に収められているのは、すべてトーキーである。
☆☆☆
The Pool Sharks (15)はフィールズのデビュー作であり、ストップ・モーションで撮られたアニメーションが使われていることでも知られる。若きフィールズは、いかにもヴォードヴィル出身らしい軽快な演技を見せている。
この DVD を見ていて最初に驚いたのは、The Golf Specialist(30) でフィールズが子供の貯金箱をいきなりかっぱらおうとするところだ。ゴルフのショットがうまくいかないフィールズは、逆ギレしてクラブを水に投げ込み、さらには、それを注意した友人まで水に投げ込む。こんなに性格の悪いコメディアンがいただろうか。あとになって、フィールズが子供と犬が大嫌いなことで有名だったのを知った(実生活でもそうだったといわれているが、これは映画が作り出した伝説のひとつだったようだ)。
虚勢をはって大物ぶってはいるが、いざとなったらたいしたことはできない男。人間嫌いの皮肉屋。数本見ただけの印象だが、アメリカのコメディ映画の歴史において、フィールズが作り出したユニークなキャラクターはそのようなものであった。
The Dentist(32)
フィールズが歯医者に扮したこの作品で驚くのは、フィールズが女性患者の歯を抜く場面でしめされるあからさまな性的ポーズだ。あまりにも風刺の効いたセリフの一部は削除された。
The Fatal Glass of Beer(33)
ドゥルーズが「小さな傑作」といって『シネマ』のなかで唯一フィールズに言及している作品。これはたぶん、フィールズ作品の試金石となるような作品だろう。吹雪の山小屋を舞台に、過剰に演劇的なしぐさと台詞回しで演じられるオフ・ビートなコメディ。フィールズが山小屋の扉を開けるたびに、"And it ain't a fit night out... for man nor beast!"というセリフを正確に繰りかえし、そのたびにどこかからとんできた雪の玉を顔面にあびるおかしさ。しかし、この映画はあまりにも時代に先んじていたため、まったく理解されなかった。
The Pharmacist (33)
The Barber Shop (33)
この二作でフィールズが演じた "a sleazy-souled barber or store owner"(マニー・ファーバー)は、アメリカ喜劇が生み出した典型的な人物像として永遠に記憶に残るはずだ。
このコレクションに収められた6作がすべてフィールズの代表作というわけではないし、長編を見なければ、フィールズの喜劇の全体像は見えてこないだろう。しかし、サイレント時代にはじまるフィールズの喜劇のさまざまな側面を、この DVD では見ることができる。W・C・フィールズという未知のコメディアンを知るには最適の一枚といえるだろう。
ついでに書いておくが、Criterion のコレクションにはいっている『トラフィック』の特典映像のなかで、ジャック・タチは、尊敬するコメディアンとして、チャップリン、キートン、ローレル&ハーディにならべてW・C・フィールズの名前を挙げている(意外だったのは、タチがウディ・アレンも評価していたことだ。もっとも、タチがほめているのは、アレンの映画のセリフが素晴らしいという点である。そういえば、松浦寿輝も、ウディ・アレンは脚本家に徹して、監督はほかに任せたほうがずっといいのではないかとどこかで書いていた)。