夏も終わりですが、最近見たホラー映画のことなどを(あんまり話題がないんです)。
アントニオ・マルゲリーティ『幽霊屋敷の蛇淫』 (DANZA MACABRA, 64)
「邪淫」という言葉がすんなり漢字変換できたので驚いたが、よく見たら「邪淫」ではなく「蛇淫」だった(同じ意味だと思うけど)。
マルゲリーティの映画は、たいしたことないなと思いながら、なんだかんだといって結局見ている。けれど、最高傑作といわれるこの作品だけは見ていなかった。結論からいうと、やっぱりそんなにたいしたことなかった、というのがわたしの感想だ。
肝試しに、古い洋館でひとりで一夜を過ごす主人公の前に、亡霊たちがつぎつぎと現れる・・・
いわゆるゴシック・ホラーものの典型といっていいような物語だ。狂言回しに導かれて、主人公が過去の幻影を目の当たりにするという設定はなかなか面白い。ただ、このゴシック趣味はわたしにはどうも古めかしくて、最後までのれなかった。「同時期に活躍したバーバやフィッシャーの仕事がいかに革命的であったかが、彼らの作品と本作を比較してみるとよくわかる」、と黒沢清も書いている。
幽霊屋敷ではないが、同じ洋館ものであるロジャー・コーマンの『アッシャー家の惨劇』で、森を通りぬけた男の目の前に、古びた洋館があらわれる冒頭のショットを見ただけで、コーマンの勝ちだと思ってしまう。マルゲリーティは、イタリアのロジャー・コーマンなどと評されることもあるが、映画的センスではコーマンのほうが断然上である。(ついでだが、『アッシャー家の惨劇』の脚本は、『アイ・アム・レジェンド』のリチャード・マチスン。)
マリオ・バーヴァ『クレイジー・キラー/悪魔の焼却炉』(HATCHET FOR THE HONEYMOON, 69, 未)
マリオ・バーヴァも、たいしたことないといいつつ、代表作はほとんど見てしまっている。これは見逃していた一本。殺人鬼が、ウェディング・ドレスを着た花嫁を殺すたびに、子供のころ母親を殺した犯人の顔をだんだんと思い出してゆくというストーリーはなかなか奇抜だが、勘のいい人なら真犯人はすぐに見当がつくはず。
シリアル・キラーものとしてはじまった映画は、殺人鬼が惨殺した口うるさい妻が幽霊となって帰ってくるあたりから、幽霊譚へとかわってゆく。妻の幽霊は、他の人には見えるのに、当の殺人鬼だけには見えないというあたりの演出が面白い。前半と後半のシフト・チェンジはユニークだが、焦点がぼやけた感は否めない。バーヴァのなかではマイナーな部類にはいる作品といっていいだろう。
ジョン・ハンコック『呪われたジェシカ』(LET'S SCARE JESSICA TO DEATH, 71, 未)
幻の傑作といわれているホラーだけにずいぶん期待したのだが、たいしたことはなかった。療養のために湖畔の一軒家で暮らすことになったヒロインが、かつて湖で溺れ死んだ娘の亡霊=吸血鬼にとりつかれる。ヒロインが精神病院から出てきたばかりという設定で、すべてが幻覚かもしれないという曖昧な演出がサスペンスを生んでいるが、いまとなってはこの手の映画は見飽きたという気がしないでもない。たとえば、オットー・プレミンジャーの『バニー・レークは行方不明』(65) は、似たような設定で、こちらはサスペンス映画に仕立て上げた佳作だった。
ハーク・ハーヴェイ『恐怖の足跡 ディレクターズ・カット版』(CARNIVAL OF SOULS, 62)
B級ホラーの大傑作として名高い作品なので、いまさらという気もするが、今回紹介するのは CRITERION COLLECTION から出ているディレクターズ・カット版。
交通事故でひとりだけ生き残った女性が、つぎつぎと奇妙な体験をする・・・。見ていない人もいるかもしれないので、内容はこれくらいにしておこう。低予算のチープさがすべてプラスに転じたような、いかにもB級な作りのホラーで、わたしも大好きな作品である。そうではあるが、劇場版とディレクターズ・カット版の2枚組にして、ロケ地訪問などの特典映像をやたらとつけて出すというのは、少しやりすぎではと思わなくもない。
日本でもいくつかのヴァージョンが出ているが、この CRITERION 版を見たら、この映画こんなにきれいな画面だったのかと驚くはず(日本版 DVD で上映時間が 83 分となっているのは、ディレクターズ・カット版の可能性がある。しかし、Amazon のサイトに書いてある上映時間は、特典映像などまですべてふくめた時間が書いている場合もある。それに、劇場版ともディレクターズ・カット版ともちがう謎のバージョンも出回っているようだ。あまり信用しないほうがいいかもしれない)。