明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

クロード・ジュトラについての調書


クロード・ジュトラ

カナダ、ケベック出身の映画監督、俳優、脚本家、編集者、撮影監督、プロデューサー。

1930年3月11日、モンレアルモントリオール)に生まれる。

医師を父親にもつが、若くして映画を志す。数編の短編を撮ったのち、1954年、Office National du Film にはいる。1957年、アニメーション作家ノーマン・マクラレンと共同監督で Il était une chaise を発表。この作品が映画祭に出品されたのをきっかけに、各国を旅する。フランスで知り合ったフランソワ・トリュフォーのすすめで、コクトーの作品を演出。作家本人からも好評を得る。

ついで、アフリカに赴き、ジャン・ルーシュシネマ・ヴェリテの手ほどきを受ける。帰国後、Office National du Film のフランス・スタッフの一員として、ミッシェル・ブローとともに多くのドキュメンタリー映画の製作に携わり、ケベックにおけるシネマ・ヴェリテの推進に努める。

(ミッシェル・ブローは、ピエール・ペローとの共同作業で知られる撮影監督・映画監督だが、クロード・ジュトラとの関係は特に密接なものだったようだ。70年代にコンビを解消するまで、ブローはジュトラのほぼすべての作品の撮影を担当している。)

1963年、最初の長編劇映画、À tout prendre を発表。数々のタブーを描いたこの作品は物議をかもし、ケベックでは不評を買うが、アメリカとフランスで絶賛される。ジャン・ルノワールジョン・カサヴェテスポーリン・ケイルといった著名人がこの映画を激賞したと伝えられている(À tout prendreケベックShadows と評する人もいる)。

1974年、生涯の代表作であり、いまではカナダ映画史上の最高傑作との定評を得ている作品 Mon Oncle Antoine (『僕のアントワーヌ叔父さん』)を撮り上げる。ついで、国際的女優ジュヌヴィエーヴ・ビジョルドを迎えて大作 Kamouraska を完成させるが、興行的に大失敗に終わる。このあとのジュトラの経歴は決して華々しいものとはいえない。カナダの英語圏で、居心地悪さを感じながら、映画およびテレビ作品を数編監督したのち、ケベックに帰り、85年に撮った Dame en couleurs が最後の作品となった。


ダイレクト・シネマとフランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けたかれの斬新な作風は、海外の批評家から高い評価を得たものの、映画後進国であったカナダにおいてはなかなか理解されず、ジュトラは最後まで時代と不幸なすれ違いをつづけたといえる。

晩年、芸術面での試行錯誤に加えて、アルツハイマー病を患い、記憶が徐々に消えていくという苦痛に耐えた。86年、ジュトラが行方不明になったというニュースにケベックが騒然とする。数日後、水死体となって発見された。自殺だったという。


当初は、クロード・ジュトラの作品は、日本ではほとんど紹介されていないと思われたが、その後の調査で、つい数ヶ月ほど前に、東京のアテネ・フランセ文化センターで行われたカナダ映画の特集上映で、ジュトラの WOW が上映されていたことが判明。しかし、このような限られたものしか見ることができない上映を、はたして「日本で紹介された」と呼ぶことができるかどうかは、はなはだ疑問である。また、驚いたことに、À tout prendreは『俺に墓標はいらない』というタイトルで日本でテレビ放映されたことがあったことが確認されている。しかし、このタイトルで検索しても情報はほとんど得られなかった。


(上は、CRITERION COLLECTION から発売されている Mon Oncle Antoine の二枚組 DVD。特典ディスクには、ミッシェル・ブローのほか、友人であったベルトルッチなどがジュトラについて語った貴重なドキュメンタリーがおさめられている。また、マクラーレンと共同で監督し、ジュトラ自身が主演しているユーモラスな短編 Il était une chaise も、この DVD で見ることができる。)



補足資料;

Claude Jutra: Filmmaker