明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『夜の悪魔』など


『ゼロ時間へ』は、最後に殺人が起きるユニークなかたちになっていると聞いていたが、中程で事件が起きてしまうのでアレッと思っていると、最後にもう一ひねりあって、さすがミステリーの女王と感心する。

べつに、そんなに独創的なことをやっているわけでもないし、トリックもそれほど驚くべきものでもない。しかし、その見せ方がうまい。やっぱり大事なのは、プレゼンの仕方なのである。関係者一同を乗せた船の上で、探偵役の警部が「いまがゼロ時間です」という瞬間のかっこよさ。最後に、デウス・エクス・マキナというか、白馬の王子のように現れる若者が、事件も恋も解決してハッピーエンドという、ハーレクイン・ロマンスふうの終わり方も、意外とこの物語にふさわしく思えて、悪くなかった。

調子に乗って、『白昼の悪魔』も読んでしまったが、これは大しておもしろくなかった。やっぱりわたしは、本格推理というやつにはほとんど興味がないらしい。改めてそのことを確認した。ただ消費されるだけの謎には興味がないのだ。

ちなみに、『ゼロ時間へ』は、『ゼロ時間の謎』という邦題で映画化されている。『白昼の悪魔』は映画『地中海殺人事件』の原作である。『地中海殺人事件』は見たような気もするし、見ていないような気もする。丹生谷貴志がどこかでこの映画について書いていたが、それを読んだ松浦寿輝が、いくらなんでも趣味が悪すぎるといっていたことを思い出す。まあ、どうでもいい話だが。


☆ ☆ ☆


前にここで少しふれたアニメ『電脳コイル』がBSアニメ夜話でとりあげられていた。こんな子供向けのアニメをまじめに見ているやつはそんなにいないだろうと思っていたが、すごく人気が高かったので驚いた。わたしのセンスは間違っていなかったらしい。まだまだ最先端にはついていけるぞ。

ちなみに、最近のお気に入りアニメは、「ミチコとハッチン」。タイトルを見て、「ハチミツとクローバー」みたいな吐き気をもよおす青春ものかと思ったが、全然違った。陽光降りそそぐブラジルでくりひろげられる痛快アクション。どこか懐かしい。


☆ ☆ ☆






今回はホラーでまとめてみました。

ロジャー・コーマン『怪談呪いの霊魂』

黒魔術を使ったため村民によって縛り首にされた男の末裔(両方ともヴィンセント・プライスが演じている)が、100年後、故郷の村に帰ってくる。その村は、縛り首にされたかれの祖先によって呪いを受け、次々と奇形児が生まれるようになり、死んだように静まりかえっていた。村に到着するなり、祖先の亡霊がかれに乗り移り、男は100年前と同じ魔術を使って悪魔を呼び出そうとする・・・

ポーではなくラヴクラフトを原作にした一作。そのせいか、コーマン作品の中ではいまいち知られていない。『わたしはいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』でも、なぜかほとんど言及されていないようだ(この本、滅法おもしろいのだが、索引がついていないので、調べ物をするには不便だ)。アメリカでは、Edgar Allan Poe's The Haunted Palace というタイトルでも公開されている。映画のラストにはポーの一節が引用されたりもするので、多くの観客はこれもポーが原作だと思ったことだろう。コーマンはこれをポー・シリーズの一作と思わせて売ろうとしていたらしい(商魂たくましいが、いくらなんでもやりすぎの気がする)。それはともかく、一連のポーものとくらべても遜色がない出来なので、コーマンのファンは見ておきましょう。



コーマンのDVDでは、いつの間にかこんなのも出ていました。

ロバート・シオドマク『夜の悪魔』(Son of Dracula)

「吸血鬼の息子」という原題は内容とまったく関係がないわけではないのだけれど、この映画でロン・チェイニーJr 演じるドラキュラの末裔は、主役というよりは脇役に近い。しかも、どちらかというと犠牲者といった方がいいぐらいのかわいそうな役回りである。ドラキュラ映画というと、吸血鬼に咬まれそうになったり、咬まれて手下にされてしまったり、咬まれたけれど処女じゃなかったので吸血鬼に逆ギレされたりする美女、いわゆるドラキュリアン・ビューティ(すいません、そんな言葉ありませんでした)が登場するのが通例だ。この映画のヒロインもドラキュラに狙われる。しかし、実は、この女がとんでもない悪女で、物語は思わぬ方向に展開してゆく・・・

なかなかユニークな吸血鬼映画なので、見ておいたほうがいいですよ。

ドン・シャープ『吸血鬼の接吻』

もう一本吸血鬼映画を。これはラストの処理で有名な作品だ。たしかに、ユニークな結末ではあるが、残念ながら、この時代の特撮技術が、監督のやりたかったことに追いついていない気がする。しかし、人物関係をほとんど説明せず、怪しげな雰囲気のまま進んでいくところは悪くない。吸血鬼ファンは押さえておくべき作品。