明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『ラオ博士の7つの顔』

- Are you an acrobat?

- Only philosophically.


7 Faces of Dr. Lao


お正月にこのブログを読んでいるひとはそういないだろう。あまり興味を引きそうにない映画をあえて取り上げることにした。といっても、つまらない映画ではない。ジョージ・パル『ラオ博士の7つの顔』は、サーカス文学のベスト3にも数えられるチャールズ・G・フィニーの原作を、『宇宙戦争』のジョージ・パルが映画化したユニークな作品だ。少し前にゴーゴンの話をしたとき、ゴーゴンが印象的な登場の仕方をするこの映画のことをすっかり忘れていた。主役でこそないが、この映画のゴーゴンも忘れがたいのだ。


荒野の真ん中にぽつんとある町。そこに鉄道が通ることを秘かに知って、ならず者たちを使って土地を買収しようと企む町の大立て者……。道具立てはほとんどすべて西部劇のそれといっていい。ただし、地平線の向こうからやってくるのは、凄腕のガンマンでも、残忍な殺し屋でもなくて、不思議なパワーをもつ謎の中国人である。町に着くなり、かれはサーカスの広告を出し、町はずれにサーカス小屋を建てる。そこで繰り広げられるまか不思議な出し物が、町の人びとを感化し、かれらの考えを変えてゆく。


その出し物のひとつに、本物のゴーゴンが登場するのだ。怪物の造形は『妖女ゴーゴン』のそれよりもこちらのほうがはるかに出来がよい。鏡に映った姿だけを見せるというアイデアも秀逸なのだが、そのあとの場面ではふつうにサーカスの舞台の真ん中を堂々と歩いていたりするのが笑える。


原作の小説にくらべると、映画のほうはよりストーリー性をもたせてあり、だいぶテイストの異なる仕上がりになっている。脚本にはもう一工夫ほしいところだし、キャストもはっきりいって貧弱だ。しかし実にユニークな作品であるのはたしかである。

サーカスと言えば、チャップリンボリス・バルネットフェリーニの作品などなどが次々と思い浮かぶ。この映画が「サーカス映画」のベスト3に入るのは難しいだろう。しかし、この西部劇とファンタジーとアジア趣味の融合は、今も映画史上ユニークな存在であり続けている。

アメリカでの興行成績はふるわなかったというが、Amazon.com の DVD のページに寄せられたコメントの数を見ると、今やカルト作品になっているといっても過言ではないだろう。

ティム・バートンにぜひともリメイクしてもらいたい作品である。