明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

Allcinema Online のことなど


情報が不正確なデータベースや、必要な情報の欠けている百科事典ほど役に立たないものはない。

Allcinema Online は、残念ながら、いま日本で唯一使える映画データベースである。残念ながらというのは、間違いが多すぎて、相当注意していないと使い物にならないからだ。そもそも、データベースというのは情報を検索するために使われるものだが、このデータベースは使い勝手が悪すぎる。IMDb のような曖昧検索ができないので、たとえばタイトルをほんの少し間違って入力すると、なにもヒットしない。じゃ、正確に入力しさえすればいいのかというと、そうでもないから困る。この映画データベースは、作品の原題さえ間違っていることが少なくないのだ。

たとえば、エルンスト・ルビッチがドイツで撮ったサイレント映画『デセプション』という作品がある。この作品の原題は "Anna Boleyn" であり、国際的にもこのタイトルで紹介されるのが一般的だ。"Deception" というタイトルは、アメリカで公開されたときにつけられたものに過ぎない(ちなみに、Madame DuBarry も、同じようにして、 アメリカでの公開時に "Passion" というタイトルに変えられた)。このタイトルが使われるときも、"Anna Boleyn (aka Deception)" といった具合に、括弧付きで使われることがふつうである。それなのに、Allcinema Online のこの映画の項目には、"Deception" のタイトルしか載っていないのだ。

とりあえず、もっと優秀なスタッフを入れて、こういう不備をできるだけ減らしてほしいものだ。


(それと、これはこのサイトの制作者の責任ではないが、誤字・脱字だらけの役に立たないコメントも読んでいていらいらする。たとえば、最近、ケン・ローチの『ブラック・アジェンダ』という作品を調べていたら、こんなコメントが書いてあった。

「事件の真相を自分の命に代えてでも徹底して追求し続け、刑事としての執念を貫くサリバン刑事に感激していたが、なんだあのラストは・・ 後味悪すぎ。製作者の意図的な終末だとしても酷すぎる。」

「製作者の意図的な終末」? まあ、勘でだいたい意味はわかるけれど、こういう文章を読んでいると気分が悪くなり、それこそ後味が悪い。ちなみに、映画で「製作者」というと、ふつうはプロデューサーのことを指すんだけど、わかっていってるのか。)



しかし、それにしても、このいい加減なアメリカン・タイトルをそのまま使って、Madame DuBarryAnna Boleynを「パッション」と「デセプション」という邦題で公開してしまった人間にも責任をとってほしいものだ。第一、「デセプション」ではなんの映画かわからないではないか。とにもかくにも、ルビッチのこの二本の歴史映画が、このタイトルで損をしていることは間違いない。

つい最近も、スカーレット・ヨハンソン主演の『ブーリン家の姉妹』という作品が公開されたばかりだが、これが『デセプション』と同じ歴史の一幕を描いた映画だということに気づいた人がどれだけいるだろう。たとえば、Wikipedia の「アン・ブーリン」の項目には、この女性を描いた映画作品がいくつかあげられているのだが、ルビッチの『デセプション』のことは一行も言及されていない。(たしかに、「デセプション」ではなんの内容かわからないが、それにしても、この程度のことは調べればすぐにわかる話である。仮にも百科事典と名のつくものが、これぐらいの情報も集められない人間によって執筆されていいものだろうか。)


ついでなので書くが、去年の何月号だったか、「カイエ・デュ・シネマ」 誌に IMDb創始者のインタビュー記事が載ったことがあった。いまや世界最大といっていい映画データベースの創始者なのだから、IT長者のようなものを思い浮かべてしまうが、写真を見ると、パソコンが数台おかれただけの質素な部屋に住んでいるのに驚いた。壁にヒッチコックの『めまい』のポスターが貼ってあるのを見ると、それこそ「カイエ」などを読んでいるようなシネフィルかと思うが、話を聞くと、ごくごくふつうの映画が好きなごくごくふつうの映画ファンのようだ。

まだ文字データだけをやりとりしていた時代のインターネットで、映画関係のいわゆる「ニュース・グループ」に、仲間同士で好きな女優の映画などをリストアップしたものを投稿していたのが始まりで、それがあれよあれよという間にいまの IMDb のような巨大なデータベースにふくれあがっていったらしい。実は、わたしも、この頃からインターネットに手を染めていて、こういうニュース・グループも時々のぞいていた。ファイルメーカーを使って映画のデータベースをつくったりもしていた。才気さえあれば、自分がこういうものをつくっていたかもしれない(まあ、そんな才気はこれっぽっちもなかったんだけど)。その頃、こういうデータベースがあれば便利なのにと思っていたものに、いまの IMDb はほぼ近づきつつある。

それにくらべると、Allcinema Online は隙だらけである。IMDb には各ページに "Update" ボタンというのがあって、その下に、"You may report errors and omissions on this page to the IMDb database managers. They will be examined and if approved will be included in a future update. Clicking the 'Update' button will take you through a step-by-step process." と書いてあり、誤りを見つけたときは簡単に報告できるようになっている。Allcinema にもメールを送るボタンはあるが、データベースの内容について特化されたものではない。何度かそれを使って誤りを指摘したことがあるが、返事が来るわけではないから、修正されたかどうかは自分で確認しないとわからない。ここのスタッフはひょっとするとプライドの高い人間なのだろうか。情報には誤りがつきものだということをあらかじめ想定さえしていないのかもしれない。べつにそれでもいいのだが、それならそれで、突っ込みようのない完璧なものを目指してほしいものだ。