明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ロジャー・コーマン『フランケンシュタイン/禁断の時空』


ロジャー・コーマン『フランケンシュタイン/禁断の時空』 (Frankenstein Unbound, 90, 未)



まじめな映画の話がつづいたので、この辺りでくだらない方向に振り子を戻しておかなければ。そう思って、いい話題を探していたら見つかった。

ロジャー・コーマンの『フランケンシュタイン/禁断の時空』、これだ。

コーマンが71年の『レッド・バロン』以来、20年ぶりに監督した作品であり、このまま行くと遺作になる可能性も高い。1990年に撮られたとは思えないチープな特殊撮影で、フランケンシュタインのファンのあいだでも微妙な評価を得ている映画だが、予算の低さが志の低さを意味しない decent な作品になっている。これぞB級といいたくなるSF・ホラー映画だ。

日本でもずいぶん以前にビデオが発売されているが、置いているレンタル・ショップは1つしか知らない。その店も大昔になくなってしまった。こういう作品も今は簡単に DVD で見ることができる。いい時代になった。


21世紀の科学者が実験の結果生じた時空の裂け目に飲み込まれて、19世紀のスイスへとタイムスリップする。そこで彼は、レマン湖畔の別荘にバイロンシェリーとともに集まっていたメアリ・ゴドウィン(のちのメアリ・シェリー)と出会い、恋をしてしまう。メアリはまだフランケンシュタインの物語を発表する前だったが、この時代のスイスでは、あのフランケンシュタイン博士が人体実験をおこなって怪物を作り出そうとしていた……。


虚実とり混ぜたでたらめな物語は、てっきりロジャー・コーマンのオリジナルだと思っていたが、実は、ブライアン・オールディスが原作だとあとで知った(『解放されたフランケンシュタイン』)。『A.I.』の原作者である。わたしのようなSFファンには、『地球の長い午後』が忘れがたいSF作家だ。実は、この作品は読んでいない。どこまで忠実に映画化されているのだろう。主人公の科学者役のジョン・ハートが乗っているハイテク・カーも原作に出てくるのだろうか。どう見ても『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のパクリとしか思えないのだが……。


タイムスリップした科学者は、彼から情報を聞き出して怪物の創造に利用しようとするフランケンシュタイン博士を阻止して、怪物を時空の彼方へと送り出す。未来文明の廃墟に、アダムとイヴならぬ、怪物フランケンシュタインとその花嫁が取り残されるというのは、おそらく原作にもあるのだろう。しかし、その怪物の造形を、ジェームズ・ホエールの『フランケンシュタインの花嫁』とそっくりに似せたのは、やはりコーマンのアイデアだろう。

なんかとんでもない展開になってしまったが、これをどうやって終わらせるんだろうと思って見ていると、さすがは低予算の神様ロジャー・コーマンだ。手をポンポンとたたくだけですべてを終わらせてしまった。これを見ていたわたしの知り合いが、思わず「ずるい」とつぶやいたのを覚えている。ずるいほどのB級精神が炸裂するロジャー・コーマンの、あえて傑作といっておく。