明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

Ku Klux Klan 映画覚書


前回アップしてからずいぶん日にちがたってしまったが、実は一行も書いていなかった。最近は、韓国映画(といっても、いわゆる韓流映画ファンがほとんど見ない30〜70年代の作品)ばかりを見ている。数十本ほどまとめて見たが、まだ重要な作品で見落としているものも多い。もう少し見てから、気が向いたらここで報告しようと思う。


さて、これといって書くこともないので、メモ帳を引っ張り出してきてネタを探す。見た映画のことをいちいち全部書いていられない。興味深かったにもかかわらず、ここで書かなかったものも多い。今日は、そんな作品のなかから、2本ほど紹介する。両方ともKKKを描いた映画だ。


「KKK+映画」でネットを検索すると、KKKを描いた映画についてのページがたくさん見つかる。しかし、そこで話題になっている映画の多くは、『ミシシッピー・バーニング』(88) や『評決のとき』(96) といったごく最近の作品ばかりだ。KKKの団員獲得に大きく貢献したと言われる『国民の創生』(15) はさすがに有名なので多くの人がふれているが、これ以後に撮られた作品のことはあまり知られていないようだ。ウィキペディアでも、『國民の創生』と『風と共に去りぬ』(39) をのぞくと、ごく最近の作品しか言及されていない。
(ついでだが、黒人が『國民の創生』をどのように見たかについては、たとえば、山田宏一が訳しているジェームズ・ボールドウィン『悪魔が映画をつくった』を参照のこと。)


実際には、『國民の創生』以後も、少なからぬ作品でKKKは描かれてきた。『The Mating Call』(ジェームズ・クルーズ、28)、『Stars in My Crown』 (ジャック・ターナー、50)、『連邦警察』(マーヴィン・ルロイ、59) や『枢機卿』(62) などがそうした作品である。しかし、KKKは微妙なテーマである故に正面切って描くのは避けたのか、それとも、このテーマではたんに興行成績につながらないと考えたのか(南部の支持を得られない)、いずれにせよ、これらの作品に描かれるKKKは、どれも物語の脇役でしかない。

ここで紹介する2本、『黒の秘密』と『目撃者』は、KKKが物語の中心に据えられている非常にレアなケースといっていいだろう。



アーチー・メイヨ『黒の秘密』(Black Legion, 36)

ハンフリー・ボガート演ずる機械工が、ポーランドアメリカ人にポストを奪われたのをきっかけに KKKを思わせる人種差別団体 "Black Legion" に入団し、やがて、非白人たちをリンチし、ついには殺人にまで手を染めるようになる。ボガートは自分の過ちに気づき、裁判で団体の犯罪を証言するが、結局仲間とともに死刑を宣告される。

ルーズヴェルト政権が左傾化していく一方で、右翼的鬱憤が社会にたまっていたと思われる。このころのKKKは、数こそ少なくなっていたが非常に過激だったという(20年代にはKKKのメンバーの数は約400万人だったが、30年代になると3万人にまで激減している)。製作はワーナー・ブラザーズ。30年代、『犯罪王リコ』や『民衆の敵』といったギャング映画で社会の暗部を描いて一世を風靡したワーナーだからこそ、こうした映画が作れたのかもしれない。作品としてはいささか図式的で、ボガートが "Black Legion" に入団する過程も、やがて改悛して罪を償おうとするところも、描き方がナイーブすぎて説得力に欠けるが、KKKを物語の中心に据えて描いたもっとも初期のアメリカ映画として記憶されるべき作品である。



スチュアート・ヘイスラー『目撃者』(Storm Warning,51)

ワーナーが『黒の秘密』の14年後に再びKKKを描いた作品。

南部に住む妹に会いに来た女(ジンジャー・ロジャース)が、深夜、バスで町に到着したとき、KKKの一団が黒人をリンチし、殺害するのを偶然目撃してしまう。なんとかその場を逃げ出し妹の家までたどりついて、いま見たことを妹に話そうとしているちょうどそのときに、妹の夫が帰ってくる。なんと、その男は、さっき目の前で黒人をリンチし、殺した一団のひとりだった……。

脚本を書いているのがリチャード・ブルックスで、タイトすぎて少し余裕がないような気もするが、非常に緊迫感のある物語に仕上がっている。ジンジャー・ロジャース演じるヒロインの人物像は英雄からはほど遠い。彼女は妹のために法廷での証言を拒み、何もせずに町を去ろうとする(この繊細な役は、ロジャースの演技力の限界を超えているような気がしないでもないが、なかなか頑張っている)。彼女を説得して証言させようとする検察官を、ロナルド・リーガンことレーガン元大統領が演じているのも注目だ。

KKKのリーダーが、歪んだ愛国心ですらない、たんなる金のために動いているというのは、テーマをぼやけさせているような気もするが、ある意味、『黒の秘密』同様、この作品もギャング映画の1ヴァリエーションであると考えたほうがいいのかもしれない。