明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ミッチェル・ライゼン『No Man of Her Own』


ミッチェル・ライゼン『No Man of Her Own』


男に捨てられた女(バーバラ・スタンウィック)が、お腹に子供を宿して一文無しの状態で列車に飛び乗る。そこで親切な新婚夫婦と知り合うのだが、その直後に列車事故が起き、新婚夫婦はふたりとも死んでしまう。まだ新婦と会ったことのなかった新郎の家族は、女を新婦と勘違いして、家に迎え入れる。成り行きから、正体を隠して、知らない家族と暮らすうちに、女はそこが自分の本当の家だと思うようになり、やがて、新婦の弟と恋に落ちる。そこに突然、女を捨てた男がひょっこり現れ、お前の正体をばらすぞと言って女を強請りはじめるのだが……。

原作は、ウィリアム・アイリッシュ。ミッチェル・ライゼンは、メロドラマとスクリューボール・コメディを得意とする監督で、こういう犯罪ものは珍しい。しかし、メロドラマとフィルム・ノワールは意外と相性がいいのだ(たとえば、マイケル・カーティスの『ミルドレッド・ピアース』とか)。

ノスタルジックに「家」の記憶を語るバーバラ・スタンウィックの艶やかな声とともに、並木道をとらえていたキャメラがゆっくりと右にパンをして一軒の家を映し出し、ショットを重ねながら家の中へと入ってゆく。声が繰り返す。「これこそが家庭だ」「でも、ここは私たちの家ではない……」

ヒッチコックの『レベッカ』の冒頭を思い出させる見事な導入部だ。

アイリッシュのファンには、サスペンスの出来がいまいちだという評判もあるようだが、脅迫者が登場してからの悪夢めいていく後半部分も悪くない。とりわけ、死体を陸橋の上から線路に投げおろすところなど、強く印象に残る。