『ゆたかな夏』(Shchedroe leto, 51)
そこらじゅうスターリンの写真だらけだし、まさに「スターリン」という単語が発せられるとともに終わるプロパガンダ映画なのだが、冒頭からキャメラは動き、列車は走り、車はすれ違いざまに急停止してバックし、荷車の藁の上で寝ていた女は川に落ちる。優雅ですてきな田園詩。
「嫉妬は資本主義へのあともどり」というセリフにはたまげた。
フランスの若き批評家たちに熱狂的に迎えられたこの作品だが(とりわけ、リヴェットがこの作品について書いた文章は熱がこもっている)、バルネット本人は、押しつけられて撮ったやっつけ仕事としか見なしていなかったようだ。
ゴダールの『映画史』では、たしか、キューブリックの『シャイニング』のホテルの廊下をすすむ前進移動のショットが、この映画の後退移動のショットと無媒介的にモンタージュされていた。
『ノヴゴロドの人びと』(43)
ナチスと闘うロシアのパルチザンたちを描く。ドヴジェンコふうの森と飛行機。言葉のわからないフランス兵とロシア娘の恋。オペラを熱唱しながらナチの秘密基地を探し回るオペラ歌手。『ゆたかな夏』『小駅』も悪くなかったが、これが、日本で知られているバルネットのイメージに一番近いか。最初の方で、胸につけたバッジにスターリンの顔が一瞬だけ映る。