ジョン・ボールティング『The Magic Box』(51)。
エジソンやリュミエール兄妹の陰に隠れて忘れ去られてしまった、イギリスにおける映画のパイオニアの一人、ウィリアム・フリーズ=グリーンの生涯を描いた作品。映画の発明にかまけて家庭を顧みない主人公をロバート・ドーナッツ、彼をけなげに支える妻をマリア・シェルが演じていて、ともに見事。
「エティエンヌ=ジュール・マレー 1830-1908 映画の創始者」「ルイ・ル・プランス 1842-1890 シネマトグラフの発明者」という墓碑銘のようなものがタイトルバックに次々と現れて、最後に「ルイ・リュミエール 1864-1948 現代映画の創始者」という碑銘が現れたあとに「ウィリアム・フリーズ・グリーン 1855-1921」という字幕が現れ、その「1855」が消えて「1921」という数字だけが残るという、映画のはじまり方が素晴らしい。
そんなふうに、映画は彼が亡くなる年、1921年から始まる。そして、最初は妻の回想で、彩色フィルムの発明に熱中するかれの姿を、次はフリーズ=グリーンの回想のなかで、さっきの回想よりもさらに遡って、かれが初めて「動く写真」を発明するところを描いてゆく。しかし、回想が順番通りにではなく、前後して描かれているのはあまり意味がないし、正直言って、この回想形式が成功しているように思えない。映画の発明に関する部分も、細かく見ていくと不正確なところが多い気がする。
伝記映画としては成功していない部分も多い。しかし、フリーズ=グリーンがスクリーンに映画を映写することに初めて成功する場面は、映像が動くというただそれだけの事がとてつもなく魔術的な体験だったことを思い出させてくれて実に感動的だ。その最初の上映を、通りすがりの警官、かれをなにか怪しい人物ではないかと疑って、スキがあったら捕まえてやろうと付いてきた警官だというのが、またいい。
この映画のことを知ったのはごく最近なのだが、見たあとでネットで調べてたら、スコセッシが『ヒューゴの不思議な発明』の際にこの映画のことをインタビューで語ってるのを発見した。しかし、スコセッシのフィルターを通した途端に、さっきの「動く写真」の発明シーンが『血を吸うカメラ』の世界と二重写しになってくるから不思議だ。