明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ヒューゴー・フレゴネーズ『七人の脱走兵』54


ヒューゴー・フレゴネーズがハリウッドで撮った3本の西部劇の最後を飾る作品。かれがこの次にウエスタンを撮るのは、この約10年後で、それはドイツ人作家カール・マイの西部小説をユーゴスラヴィアで映画化したものになるだろう。だから、ある意味、この『七人の脱走兵』はフレゴネーズが最後に撮った〈本物の〉西部劇であると言ってもいいかもしれない。


南北戦争の時代。戦況が南部側にはしだいに不利になりつつあるなか、数名の南部脱走兵が、カナダ国境近くの北部の町にカナダ人のビジネスマンを装って潜入する。軍資金にするために町の銀行を襲い、そのあとで町を焼き払うのが目的だ。この潜入作戦のリーダーである南軍の少佐(ヴァン・ヘフリン)は、かつて北軍によって故郷の町を焼かれた経験を持ち、北軍にたいして強い恨みを持っている。しかし、かれは、潜入した北部の町で下宿先の家庭の未亡人とその息子にしだいに心を惹かれるようになり、軍人としての義務と感情のあいだで板挟みになって思い悩む。こうやって住んでみれば、この北部の町にも、同じように善良で、同じように戦争によって愛する人を失った人たちがいる。それでも、計画は着々と準備され、いよいよ実行される日が近づいてくる……。


『Apache Drums』に比べると、この映画には独創性と大胆さが欠けているかもしれない。しかし、それでもこれは見事な西部劇だ。クライマックスの銀行襲撃の場面までは派手な撃ち合いもなく、西部劇と言うよりは、クライム・サスペンスに近い雰囲気で、映画は淡々と進んでいく。フレゴネーズは最初に町の全体地図を見せ、次に、南軍兵士たちに町をを実際に歩かせてみる。観客は映画を見ているあいだに、この小さな町の地形を知り尽くしたような気分になる。その一方で、フィルムに刻まれていく日付が、作戦決行のXデーがじわじわと迫ってくるのをいやが上にも意識させる。その静かな緊張感とでもいうべきものをずっと最後まで保ち続けるフレゴネーズの演出はたしかなものだ。

Apache Drums』同様、ここでも人物の造形は非常にニュアンスに富んでいて、単純な善悪の構図には収まりきらない豊かな筆致で描かれている。南軍の兵士にたいして非常に偏見に満ちた態度を見せ、最初は全然いい印象がなかった北軍大尉(リチャード・ブーン)は、最後のところで、自分は実は戦場から逃げ出した臆病者だったと勇敢に告白し、そして、銀行襲撃の日に、ただ一人南軍兵士たちに立ち向かう。それまでカナダ人ビジネスマンの振りをしていたヴァン・ヘフリンは、銀行襲撃の決行日、南軍の軍服を身にまとい、心を寄せている(そして、向こうも彼のことを思っている)北軍未亡人(アン・バンクロフト)の前に現れる。そのとき、アン・バンクロフトの眼差しは、一瞬のうちに愛情から憎悪へ、そしてまた愛情へと揺れ動く。

南軍兵士の一人リー・マーヴィンが、予想通りと言うべきか、一人だけ暴走して計画を危うくしたりもするが、作戦は見事に成功する。しかし、そこには何の勝利の高揚感もない。『マディソン郡の橋』に出てくるような屋根付きの橋を渡り終えたあとに爆破し、追っ手をふさいでから最後に町の方を振り向くヴァン・ヘフリンが見せるなんとも言えない表情が忘れがたい。


わたしが見た20世紀フォックス社から出ている DVD では、この映画はスタンダード・サイズで収録されているのだが、映画の冒頭に "cinemascope" とハッキリ出るから、このサイズはたぶん間違ってると思う。しかし、IMDb には、この映画の画面サイズは "1 : 2.35" ではなく "1 : 1.66" と書かれてある。いったいどれが正しいのか。

あとで気づいたのだが、この映画はフランスでも DVD になっていて(下写真。たぶん『Apache Drums』と同じ会社だと思う)、その DVD では "1 : 1.66" で収録されているようだ。たぶん、こっちのほうがオリジナルの画面サイズなのだろう。今さらわかっても遅いが、これから買う人はこちらを選んだ方が得策のようだ。