シドニー・グリーンストリートが出ているのは知っていたので、観音像のアップで始まるオープニングを見たときから、なんだか『マルタの鷹』みたいだなと思っていると、やがてピーター・ローレが登場し、最後に、大金がからんだ籤をめぐってわれを忘れたシドニー・グリーンストリートが、観音像を握りしめながらわなわなと震えだし、人格崩壊していくところで、あ、やっぱりこれは『マルタの鷹』を相当意識してるなと思う。
なんのことはない、見終わって確認してみたら、脚本を書いているのはジョン・ヒューストンだった。ヒューストンは自分が実際に聞いた実話をもとに、『マルタの鷹』のいわば続編としてこの映画の脚本を書いたらしい。彼は自分でこの作品を監督するつもりだったらしいが、戦争のせいでかなわず、結局、ジーン・ネグレスコが監督することになった。
偶然出会った三人の物語が、冒頭と結末をのぞくとそれぞれ無関係に進行してゆく。『マルタの鷹』の物語とは直接なんの関係もないが、これも一種の「失敗の物語」となっているところが、いかにもヒューストンらしい。
観音像の御利益を素朴に信じているらしいジェラルディン・フィッツジェラルドが徐々に発揮してゆくファム・ファタールぶりも注目だ。ピーター・ローレが珍しく気のいい善人の役を演じているのだが、彼はこういう役のときも悪くない。