明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ジーン・ネグレスコ『三人の波紋』


シドニー・グリーンストリートが出ているのは知っていたので、観音像のアップで始まるオープニングを見たときから、なんだか『マルタの鷹』みたいだなと思っていると、やがてピーター・ローレが登場し、最後に、大金がからんだ籤をめぐってわれを忘れたシドニー・グリーンストリートが、観音像を握りしめながらわなわなと震えだし、人格崩壊していくところで、あ、やっぱりこれは『マルタの鷹』を相当意識してるなと思う。

なんのことはない、見終わって確認してみたら、脚本を書いているのはジョン・ヒューストンだった。ヒューストンは自分が実際に聞いた実話をもとに、『マルタの鷹』のいわば続編としてこの映画の脚本を書いたらしい。彼は自分でこの作品を監督するつもりだったらしいが、戦争のせいでかなわず、結局、ジーン・ネグレスコが監督することになった。

偶然出会った三人の物語が、冒頭と結末をのぞくとそれぞれ無関係に進行してゆく。『マルタの鷹』の物語とは直接なんの関係もないが、これも一種の「失敗の物語」となっているところが、いかにもヒューストンらしい。

観音像の御利益を素朴に信じているらしいジェラルディン・フィッツジェラルドが徐々に発揮してゆくファム・ファタールぶりも注目だ。ピーター・ローレが珍しく気のいい善人の役を演じているのだが、彼はこういう役のときも悪くない。