ロイ・ウォード・ベイカー『The House in the Square』(51)
★★
20世紀を生きる科学者がふとしたきっかけで19世紀にタイムスリップし、そこで恋をする。そんな物語にいまさら何の興味がある? と思いながら見はじめたのだが、これがなかなか良くできていて、思わぬ拾い物だった。さすが、わたしの大好きな『火星人地球大襲撃』を撮った監督である。
近代的な実験室で、防御服に身を包んだ主人公の物理化学者(タイロン・パワー)が、なにやら核実験らしきことを行っているシーンから映画は始まる。B級SF映画を思わせる雰囲気の出だしだが、実際の内容はSFというよりはファンタジーに近い。主人公が科学者だから、何かの実験中にタイムスリップしてしまうのかと思いきや、家に帰ってきたところ玄関先で雷に打たれてそのまま19世紀に行ってしまうという、科学とは何の関係もない理由付けになっている(タイロン・パワーが科学者というのはにわかには信じがたいのだけれども、いかにも科学者らしいシーンは冒頭だけなので、そのうちに慣れる)。現代に帰ってくるシーンもやはり、ただ雷に打たれて帰ってくるだけだ。もっとも、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も、過去と現在の行き来は落雷のエネルギーを使っていたわけだから、この映画はそのルーツだともいえる(あちらは雷をちゃんと科学的に利用していたわけだが)。
正直言って、この映画には目新しいところはほとんどない。最初はモノクロで始まり、主人公がタイムスリップすると同時に画面が色づき始めてカラーに変わるという手法がとられているのだが、これも今となってはそれほど興味を引くものではない(マイケル・パウエルはすでに、『天国への階段』(46) のなかで、この世をカラーで、天国をモノクロで見せるという、意表をついたカラーの使い方をしていた)。
しかし、タイムスリップした主人公が、あまりにもいろんなことを知りすぎているために周囲から恐れられ、ついには狂人扱いされて、次第に追い詰められていくという展開はなかなか新鮮である。その過程も実に丁寧に、スリリングに描かれていて、最後まで飽きさせない。一人だけ彼を理解してくれている女性を演じているアン・ブリスのあえかな美しさも特筆に価する。
日本では DVD 化はされていない。原題は『The house in the square』だが、アメリカでは「I'll Never Forget You」というタイトルで公開されたので、こちらで検索しないとヒットしないかもしれない。
ロイ・ウォード・ベイカーという監督はときおり、おっと思う作品を撮る人なのだが、でき不出来の差が結構あって、もうこの人の傑作はあらかた見てしまったのではないかという気もする(そのなかでわたしが特にすきなのは、『火星人地球代襲撃』
を別格とすると、『脱走四万キロ』、『残酷な記念日』など)。個人的には、『黒い狼』のちゃんとした DVD をなんとかTSUTAYAでレンタルしてくれないものかと思っているのだが、難しいか(日本でもいちおう DVD は出ているのだが、けっこうお粗末な代物らしい)。