どっちもそんなにたいした映画ではないのだが、こういう地味な作品を救い出してゆくのがわたしの使命(?)なので、紹介しておく。
マーティン・ガベル『The Lost Moment』(47) ★½
ヘンリー・ジェイムスの小説『アスパンの恋文』の最初の映画化(Amazon のコメントを読むと、この小説が何度も映画化されていることを知らない人が意外と多いようだ。特にこの作品は、小説の原題とはぜんぜん違うものになっているので、気がつかない人も多いのだろう)。
19世紀の作家が書いた恋文を、いまや100歳を超える年齢になってヴェネチアに隠れ住んでいるかつての恋人が持っていることを知ったジャーナリスト(ロバート・カミングス)が、身分を偽って彼女の屋敷に住み込み、手紙のありかを探ろうとする。しかし、その屋敷には、老婦人の姪(スーザン・ヘイワード)が一緒に住んでいて、まるで『レベッカ』のデンヴァース夫人のように、彼の行動に目を見晴らせているのだった……。
この映画は大筋において原作に忠実に描かれているといっていいだろう(例えば、最近の映画化作品のひとつでは、舞台はヴェネチアではなくベネズエラに変えられている)。
しわくちゃの手以外はほとんど姿を見せない老婦人の存在(アグネス・ムーアヘッドがすごいメーキャップで演じている。わたしが見たブルーレイのパッケージは、主役を差し置いてこの老婆の手のアップが使われていた)や、屋敷への潜入など、『スペードの女王』を思い出させる部分も少なくない。いわゆる「ゴシック・ノワール」のひとつに分類することもできるだろう。
スーザン・ヘイワードが憑依状態になって若き日の老婦人と自己同一化するという、原作にはないはずの後半の展開は、興味深くはあるものの、さしたる伏線もないまま唐突におきるので、説得力に欠ける。そもそも、スーザン・ヘイワードにはこの役はちょっと荷が重すぎたという気がしないでもない。
しかし、妙な渡り廊下があったりするヴェネチアの屋敷のセットの雰囲気はなかなかのものだ。ジャーナリストは、猫に導かれるようにして秘密の通路を見つけ、ヘイワードの隠れた顔を発見する。時おり立ち止まって誘うように振り返る猫が名演技で、個人的には、この映画最大の見せ場はここだった。
チャールズ・F・ハース『私刑(リンチ)の街』(The Big Operator, 59) ★½
労働組合の指導者でありながらマフィアとも黒いつながりがあったジミー・ホッファ(92年にダニー・デヴィートが彼の生涯を映画化して話題になった)をモデルにしたとも言われるマフィア映画。ホッファと同じくチビの俳優ミッキー・ルーニーが、『殺し屋ネルソン』の延長上にあるような冷酷な組織のボスを演じていて、強い印象を残す。
ルーニーの演技をのぞくと全体的に地味な印象を与える作品だが、邦題にもなっているリンチの場面が、この時代としては非常に暴力的であるのが注目に値する。殺人を目撃してしまった組合員が、口封じのために誘拐されてリンチを受ける。裁判での証言を拒むよう脅されるが、それを拒否したため、ルーニーは彼の息子を誘拐して人質にし、無理やり証言をやめさせようとする。
映画のクライマックスは、組合員が目隠しして連れて行かれた敵のアジトを、車の中で聞いた音だけを頼りに探し当てて、息子を救い出すというもの。