明るい部屋:映画についての覚書

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ポール・ヘンリード『誰が私を殺したか?』

ポール・ヘンリード『誰が私を殺したか?』(Dead Ringer, 64)
★½


俳優として有名なポール・ヘンリードが監督したサスペンス映画。原題はクローネンバーグの『戦慄の絆』を思い出させるがまったく関係はない。『何がジェーンに起ったか?』と『ふるえて眠れ』のあいだに撮られたこの作品は、そのあまり知られざる姉妹編であるといっていい(邦題は明らかにそれを意識してつけられている)。ここにはジョーン・クロフォードオリヴィア・デ・ハヴィランドも出ていないが、そのかわりベティ・デイヴィスが二役を演じている。

ベティ・デイヴィス、とくに晩年の彼女は画面のなかに一人いるだけでも重苦しくて気がめいる存在なのだが、この映画は、そんな彼女が一人二役を演じた、まさに悪夢のような作品だ。

映画は葬式の場面で始まる。ベティ演ずるエディスは、参列者のなかに黒衣に身を包まれ、顔を黒いヴェールで覆われた女の視線に気づく。女はエディスの双子の姉妹で、エディスと瓜二つの顔をしているマーガレットだった。マーガレットは大富豪と結婚し、大邸宅に住んで裕福な生活をしていて、貧しい暮らしのエディスとは長年音信不通だった。実は、マーガレットは、エディスが付き合っていた恋人を奪って結婚したのだった。今日は、そのマーガレットの夫であり、エディスがかつて愛した男の葬式だったのである。エディスは、マーガレットが金目当てに、ありもしない妊娠まででっち上げて自分の恋人を奪ったことを今になって知ると、マーガレットを自宅に呼び出して、自殺に見せかて殺害する。髪型を変え、服を着替えて、マーガレットに成りすましたエディスは、マーガレットの屋敷に入り込んで、マーガレットとして振舞い始めるのだった……。

一卵性双生児の双子の一方が他方を殺して成りすますという話なら、「名探偵コナン」や「古畑任三郎」でも使われるトリックであり、今となっては新味に欠ける。画面も平板で、監督の力量を感じさせるところはあまりない。しかし、この映画はとにかくよくできていて、最後まで飽きずに見ることができる。


一卵性双生児による殺人という物語では、どちらがどちらなのか観客にもわからないという曖昧さがしばしばサスペンスを生むのだが、この映画ではエディスがマーガレットを殺したことは最初からわかっており、観客が二人を混同するシーンも皆無といってよい。サスペンスは別のところにある。


マーガレットに成りすましたエディスが屋敷につくと、大勢の来客(もちろん、だれが誰かもわからない)が彼女を迎える場面からはじまって、つぎつぎと降りかかってくる難題を、エディスはそのたびに機転を利かせて乗り越えてゆく。まずは、どこに応接間があるかといった家のなかの配置から、金庫の開け方、サインの書き方といったことまで、マーガレットなら当然知っているはずのことを、実は自分が知らないことを、家族やメイド、執事などに怪しまれてはいけない。おまけに、マーガレットの死について捜査する刑事は、エディスが結婚寸前だった恋人(カール・マルデン)であることが、事態をややこしくする。
映画はエディスが直面するこうした困難をサスペンスフルに描いてゆくのだが、その一方で、これは容易にコメディにも転換できるような題材であり、この映画には、作者にその意図があったのかどうかはともかく、そこかしこに笑いを誘う部分があったりもする。

エディスはどんどん深みへとはまってゆき、やがて意外な真実が明らかとなり、最後は予想外の結末を迎える。そのアイロニカルなラストもなかなか興味深い。

二人のベティが対峙するシーンは、すでに『暗い鏡』のころからハリウッドではもう完成の域に達していた技法によって、何の違和感もなく撮影されている。

決して傑作とはいえないが、『何がジェーに起ったか?』が好きな人なら、押さえておいていい作品だろう。

ところで、ベティ・デイヴィスオリヴィア・デ・ハヴィランド一人二役を演じたことがあるのだが、ジョーン・クロフォード一人二役の映画があっただろうか。あったような気もするが、思い出せない。もしあるとすれば、それも結構気持ちの悪い作品になったに違いない(実を言うと、わたしはこの三人の女優がどうにも苦手なのである)。