明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ジャック・ゴールド『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』


ジャック・ゴールド『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』(The Medusa Touch, 78) ★★



サイコキネシス(作中では「テレキネシス」という言葉が使われている)をテーマにしたオカルト・ミステリー。日本では未公開だが、カルト的な人気があり、allcinema では 9.5 ポイントというハイスコアがついている。


舞台はロンドン。パイロットを乗せた宇宙船が事故によって帰還不能になるかもしれないことを伝えるテレビのニュース中継を、自宅の暗いリヴィングで見ていた小説家(リチャード・バートン)が、謎の訪問者によって撲殺されるところから映画は始まる。いったんは死んだと思われていた作家は、奇跡的に息を吹き返し、意識不明の状態でICUに運び込まれる。事件の捜査を担当するフランス人のベテラン刑事(リノ・ヴァンチュラ)は、小説家が念力で物を動かすせると信じていたらしいことを、彼を診ていた精神科医リー・レミック)から聞き出す。しかも、その力は、人を殺すとか、物を壊すとか、破壊的なことにしか働かないらしい。刑事は、そんな話はばかばかしいと一笑に伏すが、捜査を進めるうちに、小説家は本当にそのような力を持っていたのかもしれないと考え始める。しかも、彼の念力は、意識不明で病院のベッドに横たわっている彼の脳髄から、今も破壊の力を及ぼさんとしているのだった……。


脳から発せられるエネルギーが外界に破壊的な力を及ぼすという点だけをとると、カート・シオドマク原作による『ドノヴァンの脳髄』を思い出させもする物語である。しかし、純然たるSFだったあちらと比べると、こちらはもっとずっとリアルな現実を背景に描かれているだけに、かえって現実感に欠けるところがあり、わたしのようにオカルト趣味があまりない人間には、ちょっと入り込みにくい作品になっているかもしれない。回想シーンでのリチャード・バートンの演技も(彼は映画開始早々に意識不明の寝たきり状態になってしまうので、まともに演技しているのは回想シーンの中だけなのだ)、鬼気迫る熱演というよりは、ちょっとオーヴァー・アクト気味に見え、これも作品に入り込む妨げになっている(『ここでのバートンのキャラクターは、『エクソシスト2』の神父役の延長上にある)。

しかし、この映画は全体としてとても丁寧に作られている。リチャード・バートン演じる小説家の念力話は、最初、彼が精神科医に語った物語を、精神科医リノ・ヴァンチュラに語り直すというかたちで伝えられる。超能力をとりあげたこの現実離れした話を、いわば物語のなかの物語のなかの物語として、最初は半ばフィクションとして提示しているのがこの映画の巧みなところで、それが、ミステリーの謎解きが進むにつれて徐々に現実味をましていき、気づけば、それはもうフィクションのなかではなく、現実の脅威としていま目の前で起きつつある。ここまで来ると、観客はもう、リノ・ヴァンチュラがこのフィクションを信じたように、この映画の物語を信じるようになっていて、念力によって飛行機が墜落しようが、大聖堂が崩落しようが、原子力発電所が爆発しようが、すべて受け入れる態勢になっている、というわけだ(冒頭のスペースシャトルの事故も、実は、バートンの念力によって引き起こされたのだった)。

ちなみに、作中に挿入される、サイコキネシスを実演するドキュメント・フィルムは、実在するフィルムをそのまま使ったものだと言う(もっとも、その一部は後でインチキだと判明した)。


制作者たちにはその意図はなかったろうが、旅客機がビルに突っ込むところは 9.11 のテロを思い出させずにはいない。キリスト教の象徴であるカテドラルや、原子力発電所がターゲットになるというのも、今見ると違った意味を持ってきそうだ。

日ごろ参考にしている映画ガイドに、「この映画の原作の作者は映画監督のグリーナウェイである」と書いてあったので、ホントかよと思ったのだが、調べてみたらやっぱり同名の別人だった。


大傑作だとは言わないが、SF・ホラーファンなら必見の映画だろう。幸い、日本でもブルーレイと DVD が出ている。