明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


このサイトはPC用に最適化されています。スマホでご覧の場合は、記事の末尾から下にメニューが表示されます。


---
神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

---

評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

マイケル・カーティズ『無法者の群』

マイケル・カーティズ『無法者の群』(Dodge City, 39) ★★


ワーナーでウォルシュと肩を並べていた冒険映画のヴェテラン、マイケル・カーティズは、エロール・フリンとコンビを組んで数々の冒険映画・海賊映画を作っている。これは、その分野ですでに成功していた二人が初めて撮った西部劇であり、フリンにとっては最初の西部劇だった。二人が組んだウェスタンは、『カンサス騎兵隊』、『ヴァジニアの血闘』(40) と続く。この二人の西部劇のなかでは、南北戦争を描いた『ヴァジニアの血闘』(ある意味、『無法者の群』の続編)のほうが、ランドルフ・スコットハンフリー・ボガートの共演も含めてより興味深い作品だったと思うが、作品としていちばんまとまっていたのはこの『無法者の群』だったかもしれない。

オーストラリア、タスマニア生まれのエロール・フリンを西部劇のヒーローとして認めるのは多少抵抗があるものの、フリンがいない後年のカーティズの西部劇がいささか精彩を欠くのも確かである。


駅馬車』からわずか1ヶ月遅れで公開された映画だが、華麗なテクニカラー*1、製作費やスター性において、〈無名の〉ジョン・ウェインが主役の『駅馬車』と比べて、当時は格上の作品として扱われていたはず。酒場をめちゃくちゃにぶち壊す派手な乱闘シーンだけでも、『駅馬車』の制作費の5分の1近くがかかっていると思われる。


名前は変えてあるが、エロール・フリン演じる主人公は、あきらかにワイアット・アープに基づいて作られたキャラクターである。ワイアット・アープの名前が使われていないのは、すでに別の会社がワイアット・アープの映画を進めていて、当時唯一の伝記本の権利を手に入れていたので、裁判になることを恐れたためだと思われる。

ヴァージニア・シティ、ウィチタ、トゥームストン、西部劇に登場する神話的な響きを持った都市の名前のなかでも、ダッジ・シティはとりわけ名高いものの一つと言っていいだろう。新たにできた町に「ダッジ・シティ」という名前がつけられるところから始まるこの映画の主人公は、ある意味、この町そのものであると言ってもいい。西部劇においては、都市は、繁栄するのも凋落する(ゴーストタウン)のもスピーディだ。祝福されて生まれたダッジ・シティは、あっという間に腐敗し、悪党ブライアン・ドンレヴィ(またしても)によって支配されてしまう。無論、彼を倒すのが町の保安官になったエロール・フリンの役割だ。


冒頭、列車が駅馬車と並走して打ち勝つ場面は、駅馬車(ホース)から列車(アイアン・ホース)への交通手段を端的に物語る場面として記憶に残る。『大平原』と同じく、この映画でも列車は進歩の象徴として描かれている。

『地獄への道』と同じく、ここでも新聞社が重要な役割を果たしている。西部劇の新聞社の社長はたいていならず者によって殺される運命にあるが、それはこの映画でも例外ではない。そして、その後を受け継ぐのが、主人公の恋人でもある社長の美しい娘というのもよくあるパターンだが、ここでは、娘の代わりに、新聞社で雇われていた美人記者(オリヴィア・デ・ハヴィランド)がその役を引き受けている。


*1:DVD では色ズレを起こしているが、これはテクニカラーにはありがちなこと。とは言え、なんとかならなかったかと思うが。