明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ゴードン・ダグラス『駅馬車』&セシル・B・デミル『スコオ・マン』

ゴードン・ダグラス駅馬車』(Stagecoach, 66)★

フォードの『駅馬車』をゴードン・ダグラスがリメイクした作品。

フォード版の冒頭シーンでは、通信士の漏らす「アパッチ」のたった一言によって、物語を理解するのに必要な状況が簡潔に提示されていたわけだが、ダグラスは、フォードがあえて見せなかった、アパッチが駐屯地の騎兵隊を襲撃し、電線を切断するところを律儀に見せてゆく。駅馬車の乗客一人一人に対しても導入場面がたっぷりと設けられ、おかげで全員が馬車に乗るまでフォード版の2倍近く時間がかかっている。ここでは何もかもが映像で丁寧に説明されていくにもかかわらず、オリジナル版に付け加えられるものは何もなく(むしろその逆で)、人物もいっこうに際立ってこない。

何とか見せ場を作ろうと、馬車に崖っぷちを走らせたり、大雨を降らせたりといろいろやっているが、すべてから回りしている。唯一興味深かったのは、オリジナル版がカリフォルニア近郊のモハーヴェ乾燥湖(モニュメント・ヴァレーではない)で撮影したクライマックスのアパッチ襲撃シーンの舞台を、ダグラス版は森の中に設定しているところぐらいだろうか。


セシル・B・デミル『スコオ・マン』(The Squaw Man, 31)★

サイレント時代にデミル自身が撮った作品をリメイクした西部劇。

冒頭、都会のシーンがしばらく続いてから、西部に舞台が移る。こういう出だしで始まる西部劇はないこともないのだが(チミノの『天国の門』とか)、そこのところは別にしても、西部劇らしからぬ作品で、メロドラマといったほうが近い。いわゆる「偽の西部劇」。

弟の犯した横領事件の罪をかぶって主人公は西部に渡り、そこでたまたまかかわることになったインディアンの女と結婚する。女がインディアンである物語上の必然性はほとんどなく、主人公の幸せを阻む女というメロドラマ上の設定が、たまたまインディアンでもあったというに過ぎない(そもそも、このインディアンの女は何族だったかすら説明はなかったと記憶している)。

インディアンの女とのあいだに子供が生まれ、それなりに平和に暮らしていたところに、都会から、主人公の愛する女(彼の弟は彼女と結婚していた)がやってくる。都会に帰ることを拒む主人公に、女の父親は、せめて子供だけでもちゃんとした教育を受けさせるべきだと説得する。

今までいろんな西部劇を見てきたが、西部で生まれた子供を都会で教育を受けさせるべきかどうかなどという話が出てくるウエスタンというのは見た記憶がない。東部からやってきた女が野蛮な西部に嫌気がさして都会に帰ろうとするという話ならよくあるが(その場合、たいていは、結局、西部にとどまる)。