明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

Ján Rohác, Vladimír Svitácek『千のクラリネット』


Ján Rohác, Vladimír Svitácek『千のクラリネット』(Kdyby tisíc klarinetu, 65) ★½


何やらどんくさそうな新兵が、野外で訓練中に上官に注意され、罰として遠くに見える一本木まで突撃を命じられる(彼はいつもこういう罰を命じられてばかりいるらしい)。しかし、新兵が一瞬目を離した隙きに、その木は根本から切り倒され、見えなくなってしまう。戸惑う新兵は、その瞬間に意を決し、銃もリュックも投げ捨て、脱走する。彼はすぐに追い詰められ、自分に銃を向ける仲間の兵士たちに取り囲まれてしまう。しかし、そのとき不思議な事が起きる。上官が「撃て」と命じた瞬間、兵士たちが構えていた銃がクラリネットに変わってしまうのである。この時を境にして、兵舎の至る所で、武器という武器がヴァイオリンやトランペットなどの楽器に姿を変え始める。兵舎は、手に手に楽器を持った兵士たちが歌い踊り、事件に気づいたテレビの女レポーターらを巻き込んでの御祭騒ぎになる。

奇想天外なチェコ製ミュージカル。アイデアだけのちょっと脳天気な作品という気もするが、事態にうろたえた軍の上層部が調査を始め、武器が楽器に変わる地理的境界線を見定めて杭を打っていく場面は『光る眼』を思い出させるし、境界線上で武器を動かすと、線を境に楽器に変わってゆくショットなどは、CGも使っていないのによく撮れていて感心する。

映画の大半は兵士たちが陽気に歌い踊っているだけなのだが、最後に、冒頭で脱走した新兵が再登場すると空気が一変。またしてもまわりを取り囲まれると、今度は逆に、彼が手にしていたクラリネトが機関銃に変わり、彼はそれを盲滅法に発砲し始める。続くラストショット。さっきまで兵士たちが楽器を持って座っていた楽譜台に、いまは人影はなく、ただ銃が置いてあるだけ。途中の展開が脳天気だっただけに、このペシミスティックなラストに意表を突かれる。