明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『サイレント・パートナー』『生きている死骸』

ダリル・デューク『サイレント・パートナー』★★½


冴えない銀行の金銭出納係(エリオット・グールド)が、自分の銀行で強盗が行われることを偶然に知ってしまう。男はあらかじめ大金をバッグのなかに隠しておき、わずかに残しておいた金だけを強盗に手渡す。ニュースで発表された被害額が違っていたことを知った強盗はからくりに気づき、自分の愛人を男に近づけて探りを入れる。出納係は強盗の愛人と結託し、うまく出し抜いたつもりだったが、異常性格者と言ってもいい強盗はとても彼のコントロールできるような存在ではなかった……。


ラングの『スカーレット・ストリート』のエドワード・G・ロビンソンがもっとスマートで悪いやつだったらこんな話になっていたかもしれない、などとふと思わせる内容。 赤の他人であるはずの強盗とその被害者が実は共犯関係にある。それが「サイレント・パートナー」というタイトルの意味だ。冒頭の数分間で、強盗計画の存在や、誰が強盗なのかなど、諸々の状況を台詞による説明なしにほとんど映像だけでわからせてゆくところから引き込まれる。途中少しダレる気もするが、畳み掛けるように展開し、冒頭と同じく銀行強盗のシーンで終わるクライマックスの部分の盛り上がりは申し分ない。


クリストファー・プラマーの変質者ぶりは若干やりすぎの嫌いもあり、特に最後のところはちょっと引いてしまったが、強烈な印象を残すことは確かだ。『L.A.コンフィデンシャル』のカーティス・ハンソンが「製作補/脚本」としてクレジットに名を連ねていることも見逃せない。


ちなみに、これもクリスマス映画、というか、サンタクロース映画の一つである。


チャールズ・ヴィダー『生きてる死骸』(Ladies in Retirement, 1941) ★★


イギリスを舞台にしたゴシックサ・スペンス。


ふつうなら精神病院に入れられていてもおかしくない妹二人をかかえて、ひとりの女(エレン)がイギリスの寂しい一軒家に下宿しにやってくる。最初は愛想の良かった女主人も、妹二人の常軌を逸した言動に呆れ果て、三姉妹に下宿を出てゆくようにいう。行き場所を失ってしまうことを恐れたエレンは女主人を絞殺し、周囲の者には彼女は遠くに旅行にでかけたと偽る。そんな時、エレンの従弟と名乗る男が現れる。お調子者の一方で、平気でものをくすねたりする、裏の顔がありそうなこの男が、何かがおかしいことにすぐに気づき、女中を巻き込んで、この家で何が起きているのかを探り始める……。


「生きている死骸」というタイトルから想像されるようなホラーテイストはほとんどないのだが、『ジャマイカ・イン』をちょっと思い出させる(あれは海辺の宿だが)、靄の立ち込めた荒野に寂しくぽつんとある一軒家の雰囲気には、冒頭から惹きつけられる。物語の展開も悪くない。だが、正直言って、この内容ならもう少し面白くなったのではないかという気もする。 従弟役のルイス・ヘイワードははまり役だと思うが、エレン役のアイダ・ルピノは微妙にミスキャストに思えるし、もう少しエレンに視点を合わせてみせたほうがサスペンスフルだったのではないかとも思う。いかにも『市民ケーン』以後の作品らしく天井が常に見えている撮影や、パンフォーカスを強調するようなトリッキーなショットも、特に大きな効果は上げていない。


素材は悪くないのに、結果として作家性の感じられない平凡な出来になってしまったと言えばいいだろうか。『ギルダ』という素晴らしい作品を撮ってはいるが、作家としては微妙なこの監督らしい微妙な作品ということもできるかもしれない。とはいえ、見ておいて損はない作品である。