明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


このサイトはPC用に最適化されています。スマホでご覧の場合は、記事の末尾から下にメニューが表示されます。


---
神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

---

評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

シネマ・マイノリティ・レポート

ドン・レヴィ『ヘロストラトス』

ドン・レヴィ『ヘロストラトス』(Herostratus, 1968) ★★ イギリスに住む若き詩人が、自分の飛び降り自殺を広告会社に売り込み、自殺を一大スペクタクルにすることで、それを現代社会に対するプロテストの行為にしようと試みるが、資本主義のシステムによって…

『ヴラド・ツェペシュ』 ――ドラキュラと呼ばれた男

『ヴラド・ツェペシュ』 Doru Nastase『ヴラド・ツェペシュ』(Vlad Tepes, 1979) ★★ 15世紀のワラキア公国の君主、ヴラド3世、通称ドラキュラ公、またの名を「串刺し王」を描いたルーマニアの歴史映画。ヴラド3世は、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュ…

『ROAR/ロアー』――究極の「禁じられたモンタージュ」

ノエル・マーシャル『ROAR/ロアー』★★★ 「ある出来事の本質が、行為の2つあるいはそれ以上の要素の同時的な提示を必要とするときは、モンタージュは禁じられる」 これは、アンドレ・バザンが「禁じられたモンタージュ」論*1のなかで提示した名高いテーゼであ…

『Canoa: A Shameful Memory』――メキシコ版 実録『2000人の狂人』?

フェリペ・カザルス『Canoa: A Shameful Memory』(76) ★★★ こんな映画が存在することさえ、つい最近まで知らなかった。それなりに映画を見てきたつもりだが、この世にはわたしが見たことも聞いたこともない映画がまだまだ残っているらしい。当たり前といえば…

ピーター・エマニュエル・ゴールドマン『灰の車輪』――ゴダールやストローブも注目した前衛作家の横顔

"His people come to life simply and believably; more believably than most of the people in the Chabrol and Truffaut cinema... the film has a thematic and formal beauty that is remarkable." - Jonas Mekas"[…] the most exciting new filmmaker …

クロード・ファルラド『テムロック』――アナーキー・イン・フランス

クロード・ファルラド『テムロック』(Themroc, 1973) ★★★ またしても奇妙奇天烈な映画を発見してしまった。いろんな映画を見てきたつもりだったが、まだこんなものが残っていたとは。つくづく映画とは奥が深いものだ。それにしても、アンダーグランドの底深…

ドミニク・ブニシュティ『従兄ジュール』

ドミニク・ブニシュティ『従兄ジュール』(Le cousin Jules, 1972) ★★ 備え付けの古めかしい大きなドリル、その横には万力がおかれている。埃だらけのテーブルの上に所狭しと並べられた大小様々のやっとこやハンマーを、キャメラは横移動でなめるように映し出…

フェルディナント・キットル『平行車線』

フェルディナント・キットル『平行車線』(Die Parallelstraße, 1962) 「カフカ的部屋の中で、イヨネスコ的登場人物たちが、サルトル的シチュエーションに身をおいて、カミュ的問題に取り組む映画」(ヘルムート・ハーバー) 冒頭、画面いっぱいに「188」と…

ビル・ダグラスの自伝的三部作:『My Childhood』『My Ain Folk』『My Way Home』

イギリスの映画作家ビル・ダグラスは、自伝的な三部作(三部作と言っても、いちばん短いもので48分、全部合わせても3時間にも満たないのだが)と、19世紀イギリスの農場労働者たちを描いた『Comrades』の、わずか4本の長編だけを残して、1991年に…

ベルナール・ケイザンヌ&ジョルジュ・ペレック『眠る男』

ベルナール・ケイザンヌ&ジョルジュ・ペレック『眠る男』(Un homme qui dort, 74) ★★★ ジョルジュ・ペレックは、アルファベットの「e」を一切使わないフランス語で書かれた小説『煙滅』(恐ろしいことに、日本語訳が存在する)など、アクロバティックなエク…

詩人の声で語る人類学者〜ヴィットリオ・デ・セータについての覚書

ヴィットリオ・デ・セータ Vittorio De Seta 1923年、シチリア、パレルモの貴族の一家に生まれる。最初、ローマで建築を学んでいたが、ジャン=ポール・ル・シャノワがイタリアで映画のロケをした際*1にたまたま助監督の仕事をしたことをきっかけに、映画の…

モーリス・エンゲル『小さな逃亡者』

もしも若きアメリカ人モリス・エンゲル が、その美しい映画『小さな逃亡者』で、われわれにインデペンデント映画への道を示してくれなかったら、ヌーヴェル・ヴァーグは存在しなかったでしょう。フランソワ・トリュフォー「ザ・ニューヨーカー」 ある写真の…

ボルヘスと映画〜ウーゴ・サンチャゴ『侵入』

大阪プラネットで上映するジョン・フォード作品の字幕作りをしているので、ブログを更新している暇がなかった。とりあえず『最後の歓呼』の字幕は完成。あと1本やらないといけないが、いったん休憩だ。そのあいだにチャチャッと一つ何か書いておく。 ☆ ☆ ☆ …

アルバート・リューインとマン・レイ

大阪プラネットで上映されるダダについての記録映画の字幕をつくっていて、調べたいことがあったので、20年以上前に読んだマン・レイの自伝『セルフ・ポートレート』(リンクは新装版なので、わたしが読んだ訳とは変わっているかもしれない)をひさしぶり…

クロード・ジュトラについての調書

クロード・ジュトラカナダ、ケベック出身の映画監督、俳優、脚本家、編集者、撮影監督、プロデューサー。1930年3月11日、モンレアル(モントリオール)に生まれる。医師を父親にもつが、若くして映画を志す。数編の短編を撮ったのち、1954年、Off…

ピーター・ワトキンスの『パリ・コミューン』

吉兆の謝罪会見、わろた。 Neither Mr. Laurel nor Mr. Hardy had any thoughts of doing wrong --As a matter of fact, they had no thoughts of any kind --ローレル&ハーディのある短編冒頭の字幕 "Mr. Laurel nor Mr. Hardy" のところはほかの名前に変…

『サラゴサ手稿』〜ブニュエルが愛した映画

このくくりで書くのはひさしぶりだ。今回紹介するのは、ポーランド映画『サラゴサ手稿』(『サラゴサの写本』)(65)。まさにカルト中のカルト映画である。『砂時計』で知られるヴォイチェフ・ハス監督が、18世紀ポーランドの作家ヤン・ポトツキの手になる…

ジャン=ダニエル・ポレ『秩序』

オーソン・ウェルズのやった偽放送「火星人襲来」はいまや伝説と化しているが、今朝の衛星ニュースで似たようなことがベルギーでおきたことを伝えていた。ベルギーの公共放送テレビ局が、フランドルが分離独立し、ベルギーが分断されて二つの国になるという…

フィル・カールソン『アリバイなき男』

[シネマ・マイノリティ・レポート]:このカテゴリーでは、シネフィルにもあまり注目されないような隠れた名作を紹介する。海外のメディア、あるいは海外で出版される映画研究書などに目を通していると、海外での知名度と日本での知名度が極端にちがう作品が…

ウジェーヌ・グリーン、未知の彗星?

冥王星は結局惑星から除外されてしまった。地球から最も遠い場所にある太陽系の惑星が、冥界の王 Pluton (Hades) にちなんで名付けられているというのは、占星術師でなくともなかなかに魅惑的だったのに、残念である。ハデスを辞書で調べると次のように書い…

雪の西部劇〜アンドレ・ド・トス『無法の拳銃』〜

アンドレ・ド・トス『無法の拳銃』Day of the Outlaw ★★★☆これは、最近テレビで見た映画のなかでいちばん感銘を受けたものですね。アンドレ・ド・トス作品では、ホームページ「西部劇ベスト50」で紹介した『スプリングフィールド銃』もよかったが、これのほ…

デュラスが愛した幻の傑作〜バーバラ・ローデン『ワンダ』についての覚書〜

ミッシング・リンクを探る(1)>> バーバラ・ローデン 女優で、エリア・カザンの妻。1970年、唯一の監督作『ワンダ』Wanda を撮りあげた直後に病死。 『ワンダ』は一言でいうなら、女性映画ということになるだろう。この映画が撮られたのは、アメリカにウー…