<<映画史のミッシング・リンクを探る(1)>>
『ワンダ』は一言でいうなら、女性映画ということになるだろう。この映画が撮られたのは、アメリカにウーマン・リヴ運動がすでに定着していた頃だ。しかし、夫と子供をあっさりと捨てた直後に、たまたま知り合った男にすがりつくようにつき従い、ついには強盗まで働いてしまう「受動的」ヒロイン、ワンダはフェミニストたちからも総スカンを食らった。
こうしてこの映画はアメリカ本国ではほぼ黙殺されることになる。しかし、シネフィルの王国フランスで公開されると、『ワンダ』は批評家から高い評価を得る。映画を見たマルグリット・デュラスは、この映画を公開するためならなにを差し出してもいいとまでいって絶賛。デュラスの『ワンダ』についての発言は『緑の眼』 に収められている。
これは実現することはなかったのだが、それから20年あまりたったあとで、フランスの女優イザベル・ユペールがこの映画を見て惚れ込み、配給権をみずから買って、フランスでの公開を成功させる。再び高い評価を得、ついにはDVD化されるまでに至った(日本に住むわたしがこの映画を見られたのも、ユペールのおかげである)。
ちなみに、この作品は本国アメリカでもDVD化されていない。仏版DVDは多くの特典映像を付した2枚組で、フィリップ・アズーリの音声解説、イザベル・ユペールの長いインタビューや、エリア・カザンのインタビュー、バーバラ・ローデンの音声のみのインタビュー、さらには、「マイク・ダグラス・ショー」にオノ・ヨーコ、ジョン・レノンといっしょに出演した際の貴重な映像(バーバラはオノ・ヨーコとレノンのライブに参加して打楽器を演奏しさえしている)など、盛りだくさんの内容となっている。
映画のファースト・シーンを見て、わたしはジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』を思い浮かべたのだが、アズーリの音声解説でもたまたまこの映画にふれていた。もっとも、それはテーマを比較してのことだったと思う。わたしは、ピーター・フォークが働いている工事現場の風景を突然思い出したのだった。この映画には、メジャーの映画では見たことのないむき出しのアメリカの風景が映し出されていて、ときおりはっとさせられる。
- 日本での公開予定:不明。
- 日本でのDVD化予定:不明。
日本の映画配給に関わっている人間は、海外のメディアに全然通じていない。せいぜい、アメリカのメディアに少し目を通しているぐらいだろう(推測で語っているが、そうとしか思えないほど、反応が遅いのはたしかだ)。前に、NHKの「英語でしゃべらナイト」という番組で、どこかの配給会社を取材した場面を見て驚いたのだが、そういう仕事をしているのに英語が読み書きできる人がほとんどいないのだ。配給会社が全部あんな感じだとは思わないが、大丈夫だろうかと心配になる。
この映画もやり方次第でそれなりに当たるはずだと思う。関係者の方、見ていたら検討してみてください。
追記:
最近になって(2009年4月)、東京の日仏学院で上映されたらしい。SomeCameRunning さんのブログで紹介されている。といっても、別に公開が決まったわけではない。3年たってもまだその時期は来ていないようだ。