明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

書物

『編集室の床に落ちた顔』──エルネスト・ボルネマンについての覚書

キャメロン・マケイブ『編集室の床に落ちた顔』(The Face on the Cutting-Room Floor) 映画会社に勤めるキャメロン・マケイブは、完成間近の新作からある新人女優の登場シーンを全てカットするようにとの命令を受けた。その翌日、編集室で当の女優が手首を切…

ハワード・A・ロドマン『運命特急』──1933年、ベルリンのフリッツ・ラング

「ラングの足は、手同様とても大きく、背筋をまっすぐ伸ばして歩く姿は軍人のようだった。試写が始まってからずっと、彼はそうしてここで外国製の粗末な煙草を吸っては投げ捨て自分の影がいくつも周囲で揺れ動くさまを眺めていた。廊下を行き来するたびに、…

コニー・ウィリス『リメイク』──フレッド・アステアと踊る

SF小説、とりわけ未来世界を舞台にしたSFでいささか苦手だと思うのは、その独自の世界観に馴染むまで、というか、そこに描かれている世界を多少とも信じることができるようになるまでにどうしても時間がかかってしまうところだ。時間が逆行しているとか、…

キプリング「ミセス・バサースト」と創成期における映画=小説

創成期の映画が同時代の文学にどのような影響を与えたのかについては、すでにいろいろ研究されているにちがいない(ちなみに、ここで「創成期の映画」というのは、サイレント映画がその洗練を極める以前、1910年初頭あたりまでに撮られた「プリミティブ」と…

ホレス・マッコイ『I Should Have Stayed Home』

広い意味で映画をテーマにした小説を〈シネロマン〉というカテゴリーで紹介していくことにした。これまでにアップした記事の中で該当するものも、このカテゴリーに新たに分類し直してある。 −−− ホレス・マッコイ『I Should Have Stayed Home』(38) 大恐慌時…

映画本ピックアップ――『ジョン・カーペンター 読本』ほか

『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話 (DURAS/GODARD DIALOGUES) 』 『眼がスクリーンになるとき ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』 』 『フランシス・フォード・コッポラ、映画を語る ライブ・シネマ、そして映画の未来』 木全 公彦 『スクリーンの裾を…

ナサニエル・ウエスト『いなごの日』――グロテスクに描かれる夢の墓場=ハリウッド

ナサニエル・ウエスト『いなごの日』 フィッツジェラルドやフォークナーなどと同様、ハリウッドで映画の脚本を書いていたこともある*1小説家、ナサニエル・ウエストがその頃の体験をもとに書き上げた代表作『いなごの日』。意外と読んでいなかったので、時間…

『市民ケーン』余話――コウルリッジの夢とディケンズの謎

オーソン・ウェルズの『市民ケーン』でケーンが自分のために建て、最後に、そのなかで孤独に死んでゆく城の名前「ザナドゥ」が、イギリスの詩人サミュエル・テイラー・コウルリッジによって書かれた叙事詩「クブラ・カーン」Kubla Khan のなかに登場する土地…

『高慢と偏見とゾンビ』、『希望のかたわれ』

最近読んだエンタメ系の小説を2冊、簡単に紹介する。 ジェーン・オースティン+セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』 サマセット・モームが「世界の10大小説」の一つに選んだ文学の古典、ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』に、ゾンビという…

スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』――映画は世界の始まりから存在している

"I believe that cinema was here from the beginning of the world."Josef von Sternberg Everybody say, "Is he all right?" And everybody say, "What's he like?" Everybody say, "He sure look funny." That's...Montgomery Clift, honey!The Crash "Th…

エリック・フォトリノ『光の子供』──映画のキスから生まれた子供の物語

「私は自分の生まれについてほとんど何も知らない。パリで生まれたことは知っているが、母は誰かわからず、父はただひたすら女優のスナップを撮り続けていた。そして息を引き取る少し前、私が映画のキスから生まれたことを打ち明けた。」 冒頭2ページ目に現…

『映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~』

稲生平太郎、高橋洋『映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~』 『アクアリウムの夜』『定本 何かが空を飛んでいる』などで知られる小説家、稲生平太郎と、『リング』の脚本家で、『恐怖』などのホラー映画を自分でも監督している高橋洋の2人による怒濤…

辻原登『寂しい丘で狩りをする』

今年からはブログをもっとちゃんと更新しようと思っていたのだが、1月もすでに3分の2が過ぎてしまった。小ネタでいいから、今月の残り、毎日更新するつもりでやっていこう。 辻原登『寂しい丘で狩りをする』 一昨年ぐらいに、映画ファンのあいだで話題に…

三浦哲哉『映画とは何か: フランス映画思想史 (筑摩選書)』ほか

三浦哲哉『映画とは何か: フランス映画思想史 (筑摩選書)』 港千尋『クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト』 エリック・バーナウ『ドキュメンタリー映画史』 川崎 公平『黒沢清と断続の映画』 切通理作『本多猪四郎 無冠の巨匠』 鈴木則文『下品こそ、こ…

『森崎東党宣言!』ほか

最近出た注目すべき映画本を幾つか。いずれも読んでいないのだが、気になるものばかりなので、そのうち読んでみたい。 藤井仁子編『森崎東党宣言!』 鈴木則文『東映ゲリラ戦記』 (単行本) これは、連載時から単行本になるのを待ち望んでいた本。 ジョン・マ…

カミーロ・カステロ・ブランコ『破滅の恋: ある家族の記憶』

カミーロ・カステロ・ブランコ『破滅の恋: ある家族の記憶』 (ポルトガル文学叢書) [単行本]最近になって気づいたんだけど、これ翻訳出てたのね。カミーロ・カステロ・ブランコは、『破滅の恋』『フランシスカ』『絶望の日』の三部作でオリヴェイラが取り上…

アントワーヌ・ド・ベック『ラ・シネフィリー 視線の誕生──1944−1968年 ある文化の歴史』

アントワーヌ・ド・ベック『ラ・シネフィリー 視線の誕生──1944−1968年 ある文化の歴史』 のんびり読んでたので、やっと半分ほど読み終わった。シネフィリー(映画愛)を歴史的に論じた本と思って読みはじめたのだが、今のところ、実質、「カイエ・…

セルジュ・ダネー『L'Exercice a ete profitable, Monsieur.』

出版当時に買っておきながら部分的にしか読んでなかったセルジュ・ダネーの『L'Exercice a été profitable, Monsieur.』をやっと真剣に読みはじめた。日記形式の記述ゆえの読みやすさと読みにくさ(この本は、1988年から1991年まで書き継がれた映画…

『ゴダール 映画史(全)』 (ちくま学芸文庫)

なんかぜんぜん更新できてないですね。 『ゴダール 映画史(全)』 (ちくま学芸文庫 コ 37-1) さっきツイッターで知ったんですが、訳者の奥村昭夫氏は去年お亡くなりになったそうです。

丹生谷貴志『〈真理〉への勇気──現代作家たちの闘いの轟き』

気がついたら、一月ほどブログを更新していなかった。そろそろまじめにやらなければ、誰も見に来なくなる。 言い訳ではないですが、その間、神戸映画資料館のサイト向けにこんなものを書いてました。成り行きで、柄にもなく書いた書評です。

新刊映画本〜『英国コメディ映画の黄金時代―『マダムと泥棒』を生んだイーリング撮影所』ほか

最近は、書店の映画コーナーにもほとんど立ち寄ったことがなかったので、たまにはチェックしておこうと思ってネットで調べてみた。以下、気になったものを何冊かあげておく。 『鈴木清順エッセイ・コレクション』 (ちくま文庫) 『伊丹万作エッセイ集』 (ちく…

マルカム・ラウリー『火山の下』

マルカム・ラウリー『火山の下』(EXLIBRIS CLASSICS) (単行本) マルカム・ラウリーの『火山の下で』が新訳でひさびさに登場する。わたしが学生の頃にはすでに絶版になっていた本だ。なぜ今頃という気もするが、まあとにかく、出してくれてありがたい。おおむ…

『シネマ21 青山真治映画論+α集成2001-2010』ほか

おりしも『アキレスと亀』の公開中ということもあって、Web 版「Liberation」の映画欄は、いま北野武一色だ。 さて、最近出た映画の本の中で、気になったものを紹介しておく。本屋に行っても映画コーナーにはあまりいかないし、ネットでもしばらく調べていな…

Gilberto Perez『The Material Ghost: Films and Their Medium』

ストローブ=ユイレの映画のキャメラはいつも、対象に近すぎることも、遠すぎることもない絶妙の距離に置かれている。キャメラが暴力と化してしまうほど近づくことなく、かといって無関心となるほど離れることもない距離。それは、倫理的距離とでも呼ぶべき…

ルイ・ルネ・デ・フォレ『おしゃべり,子供部屋』

ルイ・ルネ・デ・フォレ『おしゃべり,子供部屋』 少し前に再販されてました。これには正直、ちょっと驚きましたね。私が大学に入ったころには、この本はすでに絶版になっていて、その後一度も再版されたことはないと思います。図書館にはもちろん入ってまし…

ロベルト・ボラーニョ『通話』

ロベルト・ボラーニョ『通話』 あんまり評判がいいので買ってしまった。今年の6月に翻訳が出て話題になったチリの作家、ロベルト・ボラーニョの短編小説集だ。全部で14の短編が収められている。なかにはピンとこないものもあったが、どれもなかなか面白い。…

気になる復刊本

なんかいろいろあったんだけど、書きかけていたものを先にアップします。 気になる復刊本 松浦寿輝『エッフェル塔試論』単行本も、文庫本も持ってるけど、とにかくめでたい。 大岡昇平『小説家夏目漱石』 猫本2冊。村松友視『アブサン物語』 金井美恵子『タ…

『言葉を撮る―デリダ/映画/自伝』ほか

エメ・セゼール『帰郷ノート/植民地主義論』 フランスの詩人であり、政治家でもあったエメ・セゼールが亡くなりました。高齢だったのでいつ死んでもおかしくない状態だったそうです。改めて調べてみると、日本で出ている翻訳は意外と少ないですね。 ジャック…

気になる新刊〜バルザック『ランジェ公爵夫人』ほか

Amazon で新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』を注文してしまった。面白いのはわかっていたが、万が一面白くなかった場合のことを考えて、念のために3巻目までをまず注文する(といっても、全部で5巻なので、大して変わらないのだが)。わたしが買っ…

プチ読書録〜山田風太郎『魔群の通過』ほか

セルジュ・ダネーがマリオ・バーヴァの『知りすぎていた少女』についてどこかに書いていたはずだと思って探してみたが見つからなかった。L'Exercice a été profitable, Monsieur のなかに出てくる『血ぬられた墓標』のこととどうも勘違いしていたようだ。『…