書物
キャメロン・マケイブ『編集室の床に落ちた顔』(The Face on the Cutting-Room Floor) 映画会社に勤めるキャメロン・マケイブは、完成間近の新作からある新人女優の登場シーンを全てカットするようにとの命令を受けた。その翌日、編集室で当の女優が手首を切…
「ラングの足は、手同様とても大きく、背筋をまっすぐ伸ばして歩く姿は軍人のようだった。試写が始まってからずっと、彼はそうしてここで外国製の粗末な煙草を吸っては投げ捨て自分の影がいくつも周囲で揺れ動くさまを眺めていた。廊下を行き来するたびに、…
SF小説、とりわけ未来世界を舞台にしたSFでいささか苦手だと思うのは、その独自の世界観に馴染むまで、というか、そこに描かれている世界を多少とも信じることができるようになるまでにどうしても時間がかかってしまうところだ。時間が逆行しているとか、…
創成期の映画が同時代の文学にどのような影響を与えたのかについては、すでにいろいろ研究されているにちがいない(ちなみに、ここで「創成期の映画」というのは、サイレント映画がその洗練を極める以前、1910年初頭あたりまでに撮られた「プリミティブ」と…
広い意味で映画をテーマにした小説を〈シネロマン〉というカテゴリーで紹介していくことにした。これまでにアップした記事の中で該当するものも、このカテゴリーに新たに分類し直してある。 −−− ホレス・マッコイ『I Should Have Stayed Home』(38) 大恐慌時…
『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話 (DURAS/GODARD DIALOGUES) 』 『眼がスクリーンになるとき ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』 』 『フランシス・フォード・コッポラ、映画を語る ライブ・シネマ、そして映画の未来』 木全 公彦 『スクリーンの裾を…
ナサニエル・ウエスト『いなごの日』 フィッツジェラルドやフォークナーなどと同様、ハリウッドで映画の脚本を書いていたこともある*1小説家、ナサニエル・ウエストがその頃の体験をもとに書き上げた代表作『いなごの日』。意外と読んでいなかったので、時間…
オーソン・ウェルズの『市民ケーン』でケーンが自分のために建て、最後に、そのなかで孤独に死んでゆく城の名前「ザナドゥ」が、イギリスの詩人サミュエル・テイラー・コウルリッジによって書かれた叙事詩「クブラ・カーン」Kubla Khan のなかに登場する土地…
最近読んだエンタメ系の小説を2冊、簡単に紹介する。 ジェーン・オースティン+セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』 サマセット・モームが「世界の10大小説」の一つに選んだ文学の古典、ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』に、ゾンビという…
"I believe that cinema was here from the beginning of the world."Josef von Sternberg Everybody say, "Is he all right?" And everybody say, "What's he like?" Everybody say, "He sure look funny." That's...Montgomery Clift, honey!The Crash "Th…
「私は自分の生まれについてほとんど何も知らない。パリで生まれたことは知っているが、母は誰かわからず、父はただひたすら女優のスナップを撮り続けていた。そして息を引き取る少し前、私が映画のキスから生まれたことを打ち明けた。」 冒頭2ページ目に現…
稲生平太郎、高橋洋『映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~』 『アクアリウムの夜』『定本 何かが空を飛んでいる』などで知られる小説家、稲生平太郎と、『リング』の脚本家で、『恐怖』などのホラー映画を自分でも監督している高橋洋の2人による怒濤…
今年からはブログをもっとちゃんと更新しようと思っていたのだが、1月もすでに3分の2が過ぎてしまった。小ネタでいいから、今月の残り、毎日更新するつもりでやっていこう。 辻原登『寂しい丘で狩りをする』 一昨年ぐらいに、映画ファンのあいだで話題に…
三浦哲哉『映画とは何か: フランス映画思想史 (筑摩選書)』 港千尋『クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト』 エリック・バーナウ『ドキュメンタリー映画史』 川崎 公平『黒沢清と断続の映画』 切通理作『本多猪四郎 無冠の巨匠』 鈴木則文『下品こそ、こ…
最近出た注目すべき映画本を幾つか。いずれも読んでいないのだが、気になるものばかりなので、そのうち読んでみたい。 藤井仁子編『森崎東党宣言!』 鈴木則文『東映ゲリラ戦記』 (単行本) これは、連載時から単行本になるのを待ち望んでいた本。 ジョン・マ…
カミーロ・カステロ・ブランコ『破滅の恋: ある家族の記憶』 (ポルトガル文学叢書) [単行本]最近になって気づいたんだけど、これ翻訳出てたのね。カミーロ・カステロ・ブランコは、『破滅の恋』『フランシスカ』『絶望の日』の三部作でオリヴェイラが取り上…
アントワーヌ・ド・ベック『ラ・シネフィリー 視線の誕生──1944−1968年 ある文化の歴史』 のんびり読んでたので、やっと半分ほど読み終わった。シネフィリー(映画愛)を歴史的に論じた本と思って読みはじめたのだが、今のところ、実質、「カイエ・…
出版当時に買っておきながら部分的にしか読んでなかったセルジュ・ダネーの『L'Exercice a été profitable, Monsieur.』をやっと真剣に読みはじめた。日記形式の記述ゆえの読みやすさと読みにくさ(この本は、1988年から1991年まで書き継がれた映画…
なんかぜんぜん更新できてないですね。 『ゴダール 映画史(全)』 (ちくま学芸文庫 コ 37-1) さっきツイッターで知ったんですが、訳者の奥村昭夫氏は去年お亡くなりになったそうです。
気がついたら、一月ほどブログを更新していなかった。そろそろまじめにやらなければ、誰も見に来なくなる。 言い訳ではないですが、その間、神戸映画資料館のサイト向けにこんなものを書いてました。成り行きで、柄にもなく書いた書評です。
最近は、書店の映画コーナーにもほとんど立ち寄ったことがなかったので、たまにはチェックしておこうと思ってネットで調べてみた。以下、気になったものを何冊かあげておく。 『鈴木清順エッセイ・コレクション』 (ちくま文庫) 『伊丹万作エッセイ集』 (ちく…
マルカム・ラウリー『火山の下』(EXLIBRIS CLASSICS) (単行本) マルカム・ラウリーの『火山の下で』が新訳でひさびさに登場する。わたしが学生の頃にはすでに絶版になっていた本だ。なぜ今頃という気もするが、まあとにかく、出してくれてありがたい。おおむ…
おりしも『アキレスと亀』の公開中ということもあって、Web 版「Liberation」の映画欄は、いま北野武一色だ。 さて、最近出た映画の本の中で、気になったものを紹介しておく。本屋に行っても映画コーナーにはあまりいかないし、ネットでもしばらく調べていな…
ストローブ=ユイレの映画のキャメラはいつも、対象に近すぎることも、遠すぎることもない絶妙の距離に置かれている。キャメラが暴力と化してしまうほど近づくことなく、かといって無関心となるほど離れることもない距離。それは、倫理的距離とでも呼ぶべき…
ルイ・ルネ・デ・フォレ『おしゃべり,子供部屋』 少し前に再販されてました。これには正直、ちょっと驚きましたね。私が大学に入ったころには、この本はすでに絶版になっていて、その後一度も再版されたことはないと思います。図書館にはもちろん入ってまし…
ロベルト・ボラーニョ『通話』 あんまり評判がいいので買ってしまった。今年の6月に翻訳が出て話題になったチリの作家、ロベルト・ボラーニョの短編小説集だ。全部で14の短編が収められている。なかにはピンとこないものもあったが、どれもなかなか面白い。…
なんかいろいろあったんだけど、書きかけていたものを先にアップします。 気になる復刊本 松浦寿輝『エッフェル塔試論』単行本も、文庫本も持ってるけど、とにかくめでたい。 大岡昇平『小説家夏目漱石』 猫本2冊。村松友視『アブサン物語』 金井美恵子『タ…
エメ・セゼール『帰郷ノート/植民地主義論』 フランスの詩人であり、政治家でもあったエメ・セゼールが亡くなりました。高齢だったのでいつ死んでもおかしくない状態だったそうです。改めて調べてみると、日本で出ている翻訳は意外と少ないですね。 ジャック…
Amazon で新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』を注文してしまった。面白いのはわかっていたが、万が一面白くなかった場合のことを考えて、念のために3巻目までをまず注文する(といっても、全部で5巻なので、大して変わらないのだが)。わたしが買っ…
セルジュ・ダネーがマリオ・バーヴァの『知りすぎていた少女』についてどこかに書いていたはずだと思って探してみたが見つからなかった。L'Exercice a été profitable, Monsieur のなかに出てくる『血ぬられた墓標』のこととどうも勘違いしていたようだ。『…