明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ノラ・グレゴールについて


パソコンの調子が最悪なので、更新が滞り気味です。


☆ ☆ ☆


ルノワールルノワール展」にいく前にルノワールの映画をすこし見ておこうかと思って、『小間使いの日記』と『ゲームの規則』をひさしぶりに見直した。そのあとでドライヤーの『ミカエル』をたまたま見た。『ミカエル』はドライヤーがドイツのウーファで撮った作品だ。製作はあのエーリッヒ・ポマー。1年以上前に北米版の DVD を買っていたのだが、例によってそのまま見ずに放ってあったのを、なぜかいまがタイミングだと思ったというだけのことで、『ゲームの規則』の次に『ミカエル』を見たのは、まったくの偶然だった。それで驚いたのだが、『ゲームの規則』で館の女主人を演じていた女優ノラ・グレゴールが、『ミカエル』のなかで、二人の男の同性愛にも似た関係を引き裂くファム・ファタールの役で出ているのだ。

(勉強不足で知らなかったのだが、『ミカエル』にベンヤミン・クリステンセンが俳優としてでているのにも驚いた。彼が監督した『魔術』についてはここでもすでになんどかふれた。この映画でクリステンセンは、モデルの青年に同性愛的な感情をいだく初老の画家を重厚に演じている。クリステンセンもドライヤー同様、デンマークでは映画を撮れなくなり、当時ベルリンに住んで映画を撮っていたという。この作品のすぐあとで、彼はハリウッドに渡り、ロン・チャーニー主演の映画を撮ったりしている。)

ゲームの規則』でノラ・グレゴールは、オーストリアからフランスに結婚してやってきた公爵夫人という設定になっていたが、実生活の彼女も、『ゲームの規則』が撮られる直前にたしかオーストリアの公爵と結婚し(二度目の結婚)、本物の公爵夫人になっている。『ゲームの規則』に書き込まれた伝記的要素のひとつである。

ノラ・グレゴールは、最初、ウィーンで舞台女優として活躍し、マックス・ラインハルトとも仕事をしていたらしい。やがて映画の仕事もするようになり、20年代に少なからぬサイレント映画に出演している。その代表作のひとつが『ミカエル』である。その後、ハリウッドに渡ってトーキー映画に何本か出演してもいるが、それほど成功はしなかったようだ。第二次大戦中、彼女はオーストリアからスイス経由でフランスに亡命する(ノラはユダヤ人だったといわれている)。フランスにも戦火が及ぶと、そこからチリへと逃れる。戦後間もない1949年に、彼女はチリでなくなっている。自殺だったそうだが、理由は定かでない。なぜ亡命先がチリだったかも不明だ。

ノラ・グレゴールが『ゲームの規則』に登場するのは、だからほとんど偶然といってもいい。ほんの通りすがりに立ち寄ったフランスで、彼女はこの不滅の傑作に名を残すことになったのである。