明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『マルタの鷹』『ローラ殺人事件』

ホームページに載せる「フィルム・ノワール ベスト50」を書くために、何本か久しぶりに見直した作品のなかで、『マルタの鷹』が意外にも良かったので驚いた。この名作を「意外にも良かった」と書くのもどうかと思うが、もうずいぶん以前にはじめて見たときは、正直いってそれほどいいと思わなかったのだ。シネフィルのあいだには、ヒューストン派とホークス派のあいだの対立(?)とでもいったものがあり、わたしは完全にホークス派だったので、ヒューストンのことはどちらかというと冷遇しがちだった。晩年の作品はのびのびと撮られていて嫌いじゃなかったのだけれど、初期の作品はいまいち乗りきれない。「巨匠」然としたところがどうもだめなのだ。それでも、『アスファルト・ジャングル』や『キー・ラーゴ』はさすがに面白いと思ったものの、この『マルタの鷹』だけは最初から印象が薄く、その後また見直してみようとも思わなかった。だから、この作品を見るのは数十年ぶりになる。

最初に見たときはたぶん中学生ぐらいだったと思うので、知っている俳優はボギーとせいぜいピーター・ローレぐらいしかいなかったのに違いない。いまではシドニー・グリーンストリートやエリシャ・クックといった俳優の顔も見分けがつく。何よりもこの俳優たちのアンサンブルがすばらしい。黄金の鷹を黒く塗ってカモフラージュしてあるため「ブラック・バード」と呼ばれる幻の鷹が訛りの固まりにすぎないとわかったとき、シドニー・グリーンストリートのあの巨体がプシューと音を立ててしぼんでいくような哀れっぽい感じがなんともいえない。

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株式会社アバ・コーポレーションというところがDVDシリーズを出している。オットー・プレミンジャーローラ殺人事件』がそのシリーズにはいっているのだが、定価3800円のそのDVDが BOOK OFFで700円で売っていたのでつい買ってしまった。はっきり言ってひどい画質のもので、がっかりした。パッケージの裏には、「この作品は製作されて50年以上経過しているため、原版となるフィルムの状態によっては、見づらい部分、聞きづらい部分のあることを、あらかじめご了承ください」ともっともらしく書いてあるが、単に手抜きのいいわけにしか思えない。DVDソフトを扱う会社がどさくさに紛れていろいろ出てきているようだが、金儲けしか考えていないようなこういう会社は早く駆逐してほしいものだ。700円で買っても高いと思ったぐらいだから、3800円払って買った人はどう思っているのだろう。シリーズで出ているので大量にまとめ買いした人もいるかもしれない。かわいそうにとしかいいようがない。

ローラ殺人事件』のDVDはほかにも出ているようだが、1月に20世紀フォックスから豪華な二枚組のDVDが出る予定なので、それを買うのが安全だろう。とりあえず、Amazonにもリンクしていないような会社のものは避けた方がいい。

ローラ殺人事件

いま建築物の耐震構造の偽造で世の中が揺れているが、こういうひどい画質のDVDを売っている会社にもメスを入れてほしいものだ。調べれば何が出てくるかわからない気がする。